デンプンからバイオエタノールを一気通貫生産できる酵母を発見

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谷村あゆみ 農学研究科研究員、小川順 同教授、島純 龍谷大学法学部教授らの研究グループは、JST戦略的創造研究推進事業において、新規な酵母株を見い出し、食品廃棄物などに多量に含まれるデンプンから、多糖分解酵素などを使用しない一気通貫プロセスによりバイオエタノールを生産できる可能性を明らかにしました。

本研究成果は、2015年3月30日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されました。

研究者からのコメント

今回の結果は、低コスト・バイオエタノールの実用化につながる重要な成果です。JCM18690株を用いることにより、従来の酵素の添加を必要とするプロセスや、遺伝子組み換え株を用いたプロセスに比べ、酵素のコスト削減だけでなく、生産プロセスの簡易化も期待できます。さらに、JCM18690株には、キシロースからの高い発酵能力、および高温耐性があることが既に分かっており、デンプンだけでなく、さまざまな未利用バイオマスからのバイオエタノール生産に寄与すると考えられます。本株のゲノムシークエンスも進んでおり、遺伝資源としての活用も視野に入れています。これらはバイオ燃料生産を介して化石燃料を代替し、温室効果ガス排出の抑制が期待されます。

また、食品廃棄物などに含まれるデンプン質バイオマスを用いることができれば、環境負荷の軽減に寄与し、循環型社会の実現へ大きく貢献できます。今後は、より実用的なプロセスにするために、培養日数の短縮化を目指すと同時に、不溶性デンプンや実際の食品廃棄物を原料にして研究を進めていく予定です。

概要

低炭素・循環型社会の構築に向けて、さまざまな視点からの取り組みが進められ、国内外では、温室効果ガスの削減のため化石燃料を代替可能なバイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオ燃料生産の試みがなされています。

従来は、デンプンなどの多糖類からバイオエタノール生産を行う場合には、アミラーゼなどの多糖分解酵素で処理した後、酵母株 Saccaromyces cerevisiae によりバイオエタノールを生産することが一般的でした。多糖分解酵素処理は、高コストの要因となり得ることから、多糖分解処理を必要としない一気通貫プロセスの開発が望まれていました。また、遺伝子組み換え株を用いる技術は開発されていましたが、遺伝子組み換え株を用いた場合には物理的な封じ込めが必要になるため、生産プロセスが煩雑になるという問題がありました。

そこで本研究グループは、酵母の自然分離株を対象にして、デンプンからのバイオエタノールの一気通貫生産能を持つ探索研究を行いました。その結果、本学構内の土壌より単離した Scheffersomyces shehatae JCM18690株を用いることにより、デンプンからバイオエタノールを一貫生産できる可能性を示しました。さらに、 S.shehatae JCM18690株は、植物バイオマスに含まれるキシロースの発酵性や高温耐性も持っていることから、食品廃棄物も含めたさまざまなバイオマス資源からエタノール生産に適していると考えられます。

これらの研究成果は、バイオマスの有効利用やバイオ燃料生産を介して、化石燃料を代替し、温室効果ガス排出の大幅な抑制や環境保全が期待されます。


図:デンプンからのバイオエタノール生産の概略

従来の方法では、酵素のコストや工程の煩雑さがネックとなっていた。遺伝子組み換え酵母を用いることで1ステップ生産は可能だが、遺伝子組み換え株を封じ込める設備や工程が必要となり、コスト高につながる。

詳しい研究内容について

デンプンからバイオエタノールを一気通貫生産できる酵母を発見

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep09593

Ayumi Tanimura, Minako Kikukawa, Shino Yamaguchi, Shigenobu Kishino, Jun Ogawa & Jun Shima
"Direct ethanol production from starch using a natural isolate, Scheffersomyces shehatae: Toward consolidated bioprocessing"
Scientific Reports 5, Article number: 9593 Published 22 April 2015