山城健児 医学研究科講師と吉村長久 同教授らは、滋賀県長浜市で行われているながはまコホートを用いた研究で、近視(近眼)および強度近視の発症に関わる遺伝子変異を発見しました。
本研究成果は、2015年3月31日(アメリカ東部時間5:00、日本時間18:00)に、「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。
研究者からのコメント
日本人の2~3人に1人が近視(近眼)で、5%程度の人は強度近視であるといわれています。近視の原因としては、近見作業や遺伝因子などさまざまな要因が考えられていますが、いまだに近視を確実に予防する方法はありません。本研究では、近視および強度近視の発症に関係する遺伝子・分子を発見できました。近視の発症原因を探るための第一歩となる研究結果で、将来的には近視の予防や強度近視による失明の予防につながると考えています。
概要
近視(近眼)はアジア人に多く、日本人の2~3人に1人が近視であるといわれています。近視の中でも特にその度合いが強いものを強度近視と呼びます。強度近視は日本人の失明原因の上位五つの疾患に常に入っており、失明予防の方法がないために大きな問題となっています。また、子供の近視の予防方法としては点眼薬やメガネ、コンタクトレンズが試されていますが、その効果は限定的で、いまだに一般的に使用されるような段階には至っていません。
本研究では、9,800人の日本人データを解析することによって、WNT7B遺伝子の変異(SNP)が近視の発症に影響を与えていることが分かりました。さらに1,000人の日本人強度近視患者の追加データを解析したところ、WNT7B遺伝子の変異(SNP)が強度近視の発症にも影響を与えていることが分かりました。また、動物実験では角膜と網膜の細胞が出すWNT7Bの量が、近視発症時に変化するということを突き止めました。
現時点では、まだWNT7Bがどのように近視を発症させているのかは分かっていませんが、その機序が解明されれば、近視の治療薬が開発されるかもしれません。メガネやコンタクトレンズを使わなくても良くなるだけでなく、強度近視による失明も予防できるようになるかもしれません。
図:網膜内でのWNT7Bの発現
WNT7Bは網膜の神経節細胞に発現しており、マウス実験近視モデルではこの発現が有意に亢進していた。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7689
Masahiro Miyake, Kenji Yamashiro, Yasuharu Tabara, Kenji Suda, Satoshi Morooka, Hideo Nakanishi, Chiea-Chuen Khor, Peng Chen, Fan Qiao, Isao Nakata, Yumiko Akagi-Kurashige, Norimoto Gotoh, Akitaka Tsujikawa, Akira Meguro, Sentaro Kusuhara, Ozen Polasek, Caroline Hayward, Alan F. Wright, Harry Campbell, Andrea J. Richardson, Maria Schache, Masaki Takeuchi, David A. Mackey, Alex W. Hewitt, Gabriel Cuellar, Yi Shi, Luling Huang, Zhenglin Yang, Kim Hung Leung, Patrick Y.P. Kao, Maurice K.H. Yap, Shea Ping Yip, Muka Moriyama, Kyoko Ohno-Matsui, Nobuhisa Mizuki, Stuart MacGregor, Veronique Vitart, Tin Aung, Seang-Mei Saw, E-Shyong Tai, Tien Yin Wong, Ching-Yu Cheng, Paul N. Baird, Ryo Yamada, Fumihiko Matsuda, Nagahama Study Group & Nagahisa Yoshimura
"Identification of myopia-associated WNT7B polymorphisms provides insights into the mechanism underlying the development of myopia"
Nature Communications 6, Article number: 6689 Published 31 March 2015
掲載情報
- 京都新聞(3月31日 27面)、中日新聞(3月31日 3面)および日本経済新聞(3月31日夕刊 14面)に掲載されました。