萩原正敏 医学研究科教授らの研究グループは、独立行政法人科学技術振興機構(JST)等から支援を受け、医学研究科メディカルイノベーションセンター、東京大学および東京医科歯科大学と共同研究を行い、ユダヤ人に多い遺伝病である家族性自律神経失調症の治療薬候補化合物を発見しました。
本研究成果は、2015年2月9日に米国科学アカデミー紀要「PNAS」の電子版、3月3日に同紙面にて掲載されました。
研究者からのコメント
本研究により発見された化合物は、家族性自律神経失調症の根本的な治療薬となることが期待されます。また本治療戦略は、他の遺伝子疾患にも応用が可能であることから、根本的治療法が無い疾患の治療法開発に道を拓く成果です。
概要
遺伝子疾患は、遺伝情報であるDNAの変異によって、遺伝子が破壊されることにより引き起こされます。全身の細胞において、DNA上の遺伝情報を書き換えることは不可能であるため、遺伝子疾患はその治療が難しいとされてきました。
DNAは、細胞内において主にタンパク質の設計図としての機能を果たします。タンパク質が作られる過程は大きく二つのステップから成ります。まず、一つ目のステップで設計図からそのコピー(mRNA)が作られ、二つ目のステップで、そのコピーを元にタンパク質が作られます。設計図の情報はDNA上でイントロンという介在配列によって分断されているため、一つ目のステップにおいて、このイントロンを除いて意味のある部分を繋ぎあわせる、スプライシングという過程が重要な役割を果たしています。
家族性自律神経失調症は、IKBKAP遺伝子のイントロンにある1塩基変異により同遺伝子にスプライシング異常が生じ、正しい設計図コピーおよびタンパク質が作られなくなることで発症します。本研究グループは、この疾患に注目し、DNAに疾患を起こす変異を持っていても、正しくスプライシングを起こさせる活性を持つ低分子化合物を発見しました。この化合物を患者由来の細胞に投与すると、変異を持っていても正しい設計図コピーが作られ、正常なタンパク質が作られることがわかりました。
さらに本研究グループは、IKBKAP遺伝子の機能にも着目し、世界で初めて、患者細胞においてIKBKAP遺伝子産物がtRNA修飾に関与することを発見しました。また、前述の化合物投与により、その機能が回復することを示しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1415525112
Mayumi Yoshida, Naoyuki Kataoka, Kenjyo Miyauchi, Kenji Ohe, Kei Iida, Suguru Yoshida, Takayuki Nojima, Yukiko Okuno, Hiroshi Onogi, Tomomi Usui, Akihide Takeuchi, Takamitsu Hosoya, Tsutomu Suzuki, and Masatoshi Hagiwara
"Rectifier of aberrant mRNA splicing recovers tRNA modification in familial dysautonomia"
PNAS published ahead of print February 9, 2015