松田道行 医学研究科・生命科学研究科教授らの研究グループは、ニ光子顕微鏡を用いた皮膚の観察により、細胞増殖シグナルが打ち上げ花火のように同心円状に広がる現象を発見し、「SPREAD(スプレッド)」と命名しました。スプレッドの発見は表皮過形成を特徴とする皮膚疾患の病態解明に新たな光を当てるものです。
本研究成果は、2015年2月10日付の科学雑誌「eLife」に掲載されました。
研究者からのコメント
本研究成果により、表皮過形成性病変の理解が進み、新たな治療法の開発に道を開くものと思われます。また、日本は光学顕微鏡の開発ではドイツやアメリカと並んでトップを走っており、日本の強みを生かした生体組織を顕微鏡で観察するという新たな研究分野が広がっていくものと期待されます。
さらに今後は、皮膚以外の組織での細胞増殖シグナルの伝搬様式も解析していく予定です。ERKマップキナーゼの活性を測定できるマウスはじめとして、京都大学で開発された分子活性を可視化できるマウスを世界中に頒布して、「生きた組織で分子活性を観察するという新たな日本発の研究の潮流」を創生します。
概要
疣贅(イボ)や乾癬など、皮膚の表皮細胞増殖が異常に亢進している疾患は多数あります。これまでの培養細胞を用いた研究から、細胞増殖には細胞増殖因子が必要であることがわかっていますが、実際の生きた組織で、どの細胞が増殖因子を出しているか、そして表皮細胞がいつ増殖因子に反応しているのかはほとんどわかっておらず、疣贅や乾癬などにおいても、なぜ異常な表皮細胞増殖が起きるのかは謎でした。それは生きた表皮組織中で分子活性を可視化する方法がなかったからです。
そこで本研究グループは、ERKマップキナーゼ(細胞外シグナル調節キナーゼともいう)というリン酸化酵素の活性をライブで観察できるマウスを開発しました。ERKマップキナーゼは、細胞増殖刺激に反応することが知られているため、このマウスの皮膚を二光子顕微鏡という特殊な顕微鏡で観察することで、細胞増殖シグナルがどのように伝搬されるのかを観察することができます。その結果、細胞増殖シグナルは、少数の細胞から周囲の細胞へ花火のように伝搬されることを世界で初めて発見し、この現象をスプレッドと命名しました。
さらに、このスプレッドという現象は、表皮上に存在する細胞増殖因子がERKマップキナーゼの活性化により切断されて隣の細胞を活性化し、その細胞の中で、またERKマップキナーゼが活性化されるという連鎖反応により誘導されていることを見出しました。この結果は、これまでの培養細胞を用いた研究の常識を覆す発見であり、表皮過形成を特徴とする疾患の病態解明と治療法の開発に新たな道を開くものと期待されます。
図:同心円状のERK活性化現象(SPREAD)の発見
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.7554/eLife.05178
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/193674
Toru Hiratsuka, Yoshihisa Fujita, Honda Naoki, Kazuhiro Aoki, Yuji Kamioka, Michiyuki Matsuda
"Intercellular propagation of extracellular signal-regulated kinase activation revealed by in vivo imaging of mouse skin"
eLife 4: e05178 Published: 10 February 2015
掲載情報
- 京都新聞(2月28日 11面)および日本経済新聞(2月10日 19面)に掲載されました。