山本量一 工学研究科教授、Paddy Royall ブリストル大学物理学科博士、Karoline Wiesner 同博士らのチームは、コンピュータシミュレーションと情報理論とを組み合わせた研究を行い、ガラス状態にある物質中では固体的領域と液体的領域が混在するものの、低温・高密度になるほど固体的領域のサイズが増大し、その領域では分子がある特定の幾何学的構造に組織化されていることを発見しました。
本研究成果は、2015年1月22日(英国時間)付の英国科学誌「Nature Communications」電子速報版に掲載されました。
研究者からのコメント
ここでいうガラスとは、液体が温度低下とともに不規則な分子構造のまま固体的になった物質、あるいはその状態のことです。これ自体、今日の科学の進歩の速度からすると非常に長い間解明されないままの難問ですが、それだけではなく「粉粒体の詰り(ジャミング)」、「土砂や火山灰の流動化(土石流)」、「なだれ」、「交通渋滞」などの発生原理、さらには「分子混雑」と呼ばれる非常にこみ入った状態の生物の細胞内環境などもガラス状態と深く関係していることがわかっています。いずれの問題も、世界最速のスーパーコンピュータでも答えを出すことが出来ない難問ばかりですが、ガラス状態の本質、あるいは液体がガラス化する原理を解明することによって、このようなガラスに関連した広範囲の問題の解明につながることが期待できます。
今回の研究は、コンピュータシミュレーションと情報理論を用いた一つの予測ではありますが、ガラスと液体との間に明確な違いを示唆できたことは大変価値があります。その違いを物理量としていかに定量化するか、さらには同様の結果を実際のガラスについて実験的に得ることが出来るかどうか、今後に残された課題です。
概要
「ガラスは固体である(つまり液体のように流れない)」と断言できるでしょうか?
ガラス吹き職人が工芸品を作る様子を見れば、加熱されたガラスが液体的な性質を持つことは明らかです。しかし、一旦そのガラスを室温まで冷却すれば、一転して固体的な性質が支配的になり、グラスの中にワインを注いだり、窓ガラスとして使用したりすることが出来るようになります。
固体とは、微視的には分子が結晶的な規則正しい配置に収まって移動しない(流れない)状態を意味し、液体とは明確に区別できます。しかし、ガラスを構成する分子は規則正しい状態には収まっておらず、非常にゆっくりではありますが、移動し(流れ)続けているように見えます。ガラスの場合それが本当にゆっくりであるため、例えば窓ガラスが知覚できる程度に流れるには千年以上かかるとも言われています。
ガラスという、巨視的には固体に、微視的には液体に見える不思議な状態に関する研究は実は古くからありますが、その本質は未だに解明されていません。今日のスーパーコンピュータの力を持ってしても、ガラスが千年のスケールで流れるか否かという問題に、直接答えを出すには性能が遠く及ばないのです。
そこで本研究チームは、コンピュータシミュレーションと情報理論とを組み合わせた研究を行いました。その結果、ガラス状態にある物質中では、固体的領域と液体的領域が混在するものの、低温・高密度になるにつれて固体的領域のサイズが増大し、その領域では分子がある特定の幾何学的構造(例えば下図の正20面体)に組織化されていることを発見しました。この結果はガラスが確かに固体であることを示す有力な証拠となります。
図:1952年 Charles Frank 卿(ブリストル大学HH Wills 物理学研究所)により安定構造として予見された正20面体。正3角形20枚で構成される多面体で、3次元空間では最大の面数を持つ正多面体
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7089
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/193232
Andrew J. Dunleavy, Karoline Wiesner, Ryoichi Yamamoto & C. Patrick Royall
"Mutual information reveals multiple structural relaxation mechanisms in a model glass former"
Nature Communications 6, Article number: 6089 Published 22 January 2015
掲載情報
- 京都新聞(1月31日 9面)に掲載されました。