大腸がん悪性化の機構を解明 -新規治療法・予後予測マーカー開発へ期待-

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武藤誠 国際高等教育院特定教授/医学研究科名誉教授、園下将大 医学研究科准教授らの研究グループは、Aes(Amino-terminal enhancer of split)の消失で促進されるNotchシグナルに依存する転写によって、大腸がんの浸潤・転移が促進される機構を解明することに成功しました。

本研究成果は、米国癌学会「Cancer Discovery」 誌の電子版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から武藤特定教授、園下准教授

分子生物学の進歩はがん研究に大きな変革をもたらし、「がん」の本態を遺伝子発現の異常による分子的変化として解明しました。これらを基礎に多くの分子標的薬が登場し、がん治療を大きく変革しています。しかし、多くの患者にとって「がん」は未だに致死の病であり、その原因は転移です。転移を克服すれば、がんを完治できる。その目的に向かって基礎研究と臨床研究を融合し、若い同僚と日々の研究の進歩に興奮しています。(武藤特定教授によるコメント)

概要

消化器がんは、がんの中でも最も死亡率が高いとされています。特に肝臓や肺への転移が死因となっているため、その機序の解明および予防・治療法の確立が急務となっています。

本研究は、2011年に本研究グループが発表した論文(Sonoshita et al., Cancer Cell 19:125–37, 2011)を発展させたもので、大腸がん転移抑制タンパクAesが減弱・消失することで起きるNotchシグナル伝達の活性化が、Trioという巨大なタンパクの特定のチロシン残基のリン酸化を起こし、下流のRhoタンパクの活性化による大腸がん細胞の浸潤・転移を促進することを解明したものです。概要を以下に示します。

  1. Notchシグナル伝達により転写される新規遺伝子の一つは、アダプタータンパクの一つDab1である。
  2. Dab1はチロシンキナーゼAblによりリン酸化されて活性化し、一方、こうして活性化したDab1は、Ablの自己リン酸化を促進することでAblを活性化する。
  3. こうして活性化したAblの大腸がん細胞におけるリン酸化標的分子の一つは、RhoGEFタンパクの一つTrioである。
  4. 2681番目のチロシン残基がAblによってリン酸化されたTrio(Trio(pY2681))は、RhoGEF活性によってRhoタンパクの活性化を招来し、大腸がん細胞の浸潤・転移を促進する。
  5. Trio(pY2681)は、大腸がん患者の予後(術後生存率)と強い負の相関を示す。

これらの結果は、大腸がんにおいてNotchシグナル伝達の下流で起きるTrio(pY2681)を用いて患者の予後予測が可能であることを示すと同時に、既存のAbl阻害薬を用いて浸潤、転移の予防を目指す補助化学療法が可能になることを示唆しています(図)。


(図)Trio(pY2681)陰性(low)と陽性(high)患者における術後生存率の違い

詳しい研究内容について

大腸がん悪性化の機構を解明 -新規治療法・予後予測マーカー開発へ期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1158/2159-8290.CD-14-0595

Masahiro Sonoshita, Yoshiro Itatani, Fumihiko Kakizaki, Kenji Sakimura, Toshio Terashima, Yu Katsuyama, Yoshiharu Sakai and M. Mark Taketo
"Promotion of Colorectal Cancer Invasion and Metastasis through Activation of Notch–Dab1–Abl–RhoGEF Protein Trio"
Cancer Discovery Published OnlineFirst on November 28, 2014

掲載情報

  • 朝日新聞(12月4日 7面)、京都新聞(12月4日 27面)、産経新聞(12月4日 28面)、中日新聞(12月4日 33面)および日本経済新聞(12月4日 42面)に掲載されました。