超伝導ゆらぎによる巨大熱磁気効果の発見

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山下卓也 理学研究科博士後期課程学生、住吉浩明 同学生、松田祐司 同教授、芝内孝禎 東京大学新領域創成科学研究科教授(京都大学理学研究科客員教授)、藤本聡 大阪大学基礎工学研究科教授は、芳賀芳範 日本原子力研究開発機構原子力科学研究開発部門先端基礎研究センター研究主幹らと共同で、ある種のウラン化合物超伝導体では、熱磁気効果がこれまでの超伝導体よりも桁違いに大きくなることを発見しました。このような新しいメカニズムに基づく熱磁気効果が観測されたことにより、新奇超伝導ゆらぎを基盤とした熱電変換材料への応用の可能性が示唆されます。

本研究成果は、2014年12月1日(英国時間)付け、英国科学誌「Nature Physics」の電子速報版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から山下博士課程学生、住吉同学生

超伝導の前駆現象である超伝導ゆらぎは、長年、精力的に研究されてきました。今回、理論物理学を専攻している大学院生が、トポロジーに関連した新しいタイプの超伝導ゆらぎを提案し、熱磁気効果により検出可能であると予言しました。そして、物理学教室の実験グループによって、実際に検出されました。この熱磁気効果は、従来の超伝導体を良く説明するゆらぎの理論から得られる値よりも、100万倍近い大きさをもつことが見い出されました。

ポイント

  • 磁場中で縦方向の温度差を横方向の電圧に変換する機能である「熱磁気効果」は、超伝導体の転移温度以上で観測されるが、既往研究ではその効果は小さい。
  • ウラン化合物の超伝導物質において、従来の理論値に比べ100万倍にも達する巨大な熱磁気効果を観測した。
  • この巨大熱磁気効果のメカニズムは、この物質における新奇な超伝導に関連した新しいタイプの超伝導ゆらぎに由来する。

概要

ある種の物質を冷やしていくと、低温で二つの電子がペア(クーパー対)を組み、抵抗がゼロとなる超伝導状態が実現します。しかし、超伝導転移温度以下でのみこのペアが形成されるわけではなく、転移温度より少し高い温度でも、熱ゆらぎの効果によりこのペアは形成されます。この熱ゆらぎによるペアは、泡のように生成・消滅を繰り返し、その結果、超伝導状態の前兆ともいえる「超伝導ゆらぎ」が発現します。この超伝導ゆらぎは、さまざまな物理量に影響を与えます。特に磁場中の熱電変換効果の一種である熱磁気効果(ネルンスト効果)は、超伝導ゆらぎの性質を調べる上で重要な物理量として知られています。ところが、通常の超伝導体では、この熱磁気効果の大きさ自体はあまり大きなものではなく、熱電変換材料としてはあまり注目されていませんでした。

そこで本研究では、ウラン化合物超伝導体URu 2 Si 2 の超純良試料を用い、超伝導ゆらぎに起因した熱磁気効果を精密に測定しました。その結果、試料の純良性が増すほど、超伝導ゆらぎの効果は熱磁気効果に顕著にあらわれました。これは、超伝導体においてこれまで観測された実験結果と定性的に異なっています。さらに、熱磁気効果の大きさは、従来の超伝導体を良く説明するゆらぎの理論から予想される値の100万倍に達することもわかりました。URu 2 Si 2 の超伝導では、クーパー対を形成する二つの電子が、互いの周りを右回り、または左回りのどちらか一方向に回転している新奇な超伝導状態が実現していると考えられています。このような超伝導体はカイラル超伝導体と呼ばれており、そのクーパー対は従来の超伝導体にはない新奇な幾何学的構造を持ちます。このようなカイラル超伝導体では、超伝導の泡の表面を流れるペア電子によって、伝導電子が散乱されます(図)。この散乱過程に基づいた新しい理論によって、本実験結果は定量的に説明されることが明らかになりました。


熱磁気効果を引き起こす新しい機構の概念図

左右に温度差をつけて左から右に熱流を流し、紙面に垂直に磁場をかけたときに上下に電圧が発生する。超伝導の泡(超伝導ゆらぎ)の表面を流れるペア電子によって伝導電子が散乱される。

詳しい研究内容について

超伝導ゆらぎによる巨大熱磁気効果の発見

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nphys3170

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/199862

T. Yamashita, Y. Shimoyama, Y. Haga, T. D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Sumiyoshi, S. Fujimoto, A. Levchenko, T. Shibauchi and Y. Matsuda
"Colossal thermomagnetic response in the exotic superconductor URu 2 Si 2 "
Nature Physics Published online 01 December 2014