正高信男 霊長類研究所教授らの研究グループは、成人108名とこども25名に、それぞれ、さまざまなヘビと花の写真を見せ、その際の写真の色の回答を求めたところ、成人もこどももヘビの色を答えるときのほうが、花の色を答えるより迅速に回答することがわかりました。これは、恐怖感情を抱くことは認知情報処理を妨げるという、ここ一世紀の間信じられてきた心理学の定説を覆し、ダーウィンの主張を支持する知見です。
本研究成果は、英国王立協会刊行の「Royal Society Open Science」誌に掲載されることになりました。
研究者からのコメント
本研究成果では、恐怖は理性的判断を行うにあたって、良くないものであるという従来の考えを、極めて簡便に、かつ再現性の高い技法で根本的に覆す知見を提供しました。
今後は、恐怖がこころの働きを活性化しない人々がいるのではないか、具体的に一般の社会生活を営むことが困難な人々の心理の解明を行います。
概要
「智に働けば角が立つ、情に棹させば流される」といわれるように、理と情は対立するものと考えられています。特に恐怖のようなnegativeな感情は人間の判断を鈍らせるというのが心理学のセントラルドグマです。これに反対する考えをとなえたのはダーウィンですが、この考えはその後、まったく無視されてきました。
そこで本研究グループは、このダーウィンの考えを検証するべく、成人108名とこども25名にそれぞれ、さまざまなヘビと花の写真を見せ、その際の写真の色の回答をもとめ、回答に要する時間を計測しました。その結果、成人もこどももヘビの色を答えるときのほうが、花の色を答えるより迅速に回答することがわかりました。これは恐怖感情を抱くこと(どきっとするような)は、認知情報処理を妨げるという、ここ一世紀の間信じられてきた心理学の定説を覆し、ダーウィンの主張を支持する知見です。
図:(上)実験に用いられた刺激の例。左が赤いヘビ、右が青い花。(下)ヘビと花の写真への赤、青、緑の色ごとの反応時間の比較。左が成人、右がこども。いずれの場合もヘビの写真の時のほうが、花よりも色の回答に要した時間が短いことがわかる。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1098/rsos.140066
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191085
Masahiro Shibasaki, Tomoko Isomura, Nobuo Masataka
"Viewing images of snakes accelerates making judgements of their colour in humans: red snake effect as an instance of 'emotional Stroop facilitation'"
Royal Society Open Science Published 5 November 2014