笠原成 理学研究科助教、綿重達哉 同大学院生(日本学術振興会特別研究員)、松田祐司 同教授、芝内孝禎 同客員教授(東京大学教授)らの研究グループは、花栗哲郎 理化学研究所チームリーダー、宇治進也 物質・材料研究機構ユニット長、ドイツ・カールスルーエ工科大学の研究者らと共同で、鉄を含んだ金属間化合物において「ボース・アインシュタイン凝縮に最も近い超伝導状態」が実現し、さらにこの物質が強磁場中で別の超伝導状態に移り変わることを発見しました。今回発見された新しい超伝導では、これまでに前例のない状態が実現されている可能性があり、今後、物質の示す新しい量子状態として研究が進むことが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Proceeding of the National Academy of Sciences USA (PNAS)」のオンライン速報版に掲載される予定です。
研究者からのコメント
これまでボース・アインシュタイン凝縮に近いような超伝導・超流動は冷却原子でのみ実現されてきましたが、今回、これに最も近い状態を実在する超伝導物質で発見できたことは大変意義深いものと考えます。さらに、このような物質に強磁場をかけると未知の超伝導状態が現れることは、とても興味深い現象です。今回の研究成果は物質の示す新しい量子状態の開拓につながることが期待できます。
ポイント
- 今まで冷却原子でのみ実現していたボース・アインシュタイン凝縮に最も近い超伝導状態が実在の物質で実現していることを示した。
- 強磁場中で未知の超伝導状態が現れることを発見
- 新しい量子状態の研究の舞台を提供
概要
金属中の伝導電子は、通常、数万度という高い運動エネルギーを持って飛び回っています。一方、超伝導は、二つの電子の間に引力が働き、電子のペアが形成されることによって生じます。通常の超伝導物質では、電子の運動エネルギーは、ペアを作ろうとするエネルギーよりも圧倒的に大きいことが知られています。逆に、電子がペアを作るエネルギーが強くなった極限では、強く束縛された分子状のペアが作られ、ペア同士は互いに弱く相互作用した状態で超流動や超伝導を起こすことが示唆されています。この現象は「ボース・アインシュタイン凝縮」と呼ばれています。この二つの中間状態では、ペアの大きさと電子の平均間隔が同程度になっています(左図)。この状態ではペア同士の相互作用が非常に強くなると考えられ、非自明な量子状態が実現される可能性があることから興味が持たれています。しかし、これまでの実際の超伝導物質では、ボース・アインシュタイン凝縮に近いような状態は発見されておらず、また、そのような超伝導でどのようなことが起こるかも分かっていませんでした。
今回、研究チームは、鉄を含んだ金属間化合物FeSeの電子状態と超伝導状態を調べることに成功しました。その結果、電子の運動エネルギーとペアを形成するエネルギーがほぼ同じであり、この物質ではこれまでのどの物質よりもボース・アインシュタイン凝縮に近い超伝導が実現していることを発見しました。さらに研究チームは、このような異常な超伝導において、低温・強磁場中での性質を調べ、電子の運動エネルギーと、ペアを作ろうとするエネルギー、さらに磁場のエネルギーが同程度になることで、三つのエネルギーの競合が起こり、新しい超伝導状態が実現することを発見しました(右図)。
今回発見された超伝導状態は、これまでの物質で実現されたことのない量子状態であると考えられ、この状態を詳細に調べることにより、新しい概念が得られると期待されます。
ボース・アインシュタイン凝縮に近い中間状態(左図)。電子ペアの大きさと各電子の平均間隔が同程度になる。このような特異な超伝導状態に強磁場をかけると、超伝導状態(A)から未知の超伝導状態(B)へ移り変わる(右図)。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1413477111
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191117
Shigeru Kasahara, Tatsuya Watashige, Tetsuo Hanaguri, Yuhki Kohsaka, Takuya Yamashita, Yusuke Shimoyama, Yuta Mizukami, Ryota Endo, Hiroaki Ikeda Kazushi Aoyama, Taichi Terashima, Shinya Uji, Thomas Wolf, Hilbert von Löhneysen, Takasada Shibauchi, and Yuji Matsuda
"Field-induced superconducting phase of FeSe in the BCS-BEC cross-over"
Proceeding of the National Academy of Sciences USA (PNAS)Early Edition November 3, 2014.
掲載情報
- 日刊工業新聞(11月4日 13面)および科学新聞(11月21日 1面)に掲載されました。