高田昌彦 霊長類研究所教授、大石高生 同准教授らの研究グループは、霊長類研究所で世界で初めて「早老症」のニホンザルを発見しました。ニホンザルは通常3歳半で思春期を迎え、25歳程度で老齢に達します。ところが、早老症のニホンザルは1歳未満で白内障や皮膚の萎縮を発症し、2歳の時点で脳が萎縮し、糖尿病の初期症状を示しました。ヒトの早老症の原因となる遺伝子には異常が見られなかったことから、新しいタイプの早老症であると考えられます。
本研究成果は、米国学術誌「PLOS ONE」電子版(米国東部標準時間11月3日)に掲載されました。
研究者からのコメント
ニホンザルなどのマカクザルは、マウスなどの実験動物よりもはるかにヒトに近い発達・老化パターンを持ちます。早老症モデルのサルでは、実際にサルの老化やヒトの早老症と似た身体的変化が幼児期に現れました。今後は、早老症モデルのサルの身体的な変化をさらに詳しく調べるとともに、その原因遺伝子を探索し、正常老化や早老症のメカニズムの解明を目指します。
また現在、霊長類研究所では、ニホンザルのiPS細胞の作成に取り組んでいますが、このサル由来の細胞からiPS細胞を作成し、新しい早老症モデル細胞の実験系を構築する予定です。さらに、早老症に限らず、さまざまな特徴を持ったニホンザルを網羅的に探索し、身体・行動・ゲノムを多角的に調べることにより、新しいモデル動物に対する研究を試みたいと考えています。
概要
早老症は、実際の年齢よりも急激かつ顕著に、老化と共通した身体変化が生じる一群の疾患です。ウェルナー症候群やハッチンソン・ギルフォード症候群などが代表的な早老症で、いずれも非常にまれな遺伝疾患です。原因は、DNA修復能力の低下や染色体の不安定化とされています。これまで、ヒト以外の動物では、早老症の自然発症例はほとんど報告されておらず、また、ヒトの早老症の原因遺伝子を持つマウスでも、限られた症状しか発現しませんでした。
このたび、同研究所で飼育しているニホンザルの中に変わった外見の子ザルがいることが発見されました。MRI、CT、血液や尿の生化学検査、皮膚の組織学的検査、皮膚から培養した細胞の検査、遺伝子検査などを行い、正常な子ザル、オトナザル、老齢ザルの検査結果と比較したところ、この子ザルは、白内障、皮膚の萎縮、大脳皮質や海馬の萎縮、神経の伝導速度の低下、糖尿病マーカーの増加など、老齢ザルや早老症患者と共通した性質を示しました。また、皮膚から培養した細胞は増殖速度が低く、DNA修復能力も低下していました。これも早老症患者と共通する特徴です。
しかし、詳しく検討すると、ヒトの早老症に属するいずれの症候群とも症状が完全に一致することはなく、原因となる遺伝子にも異常は見られませんでした。このことから、このサルはヒトで報告されている早老症とは異なったタイプの早老症の個体であるが、身体的な特徴が早老症と類似しているため、早老症や正常老化のメカニズムを研究する上で有用なモデル動物になると考えられます。
早老症モデルのサル
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0111867
Takao Oishi, Hiroo Imai, Yasuhiro Go, Masanori Imamura, Hirohisa Hirai, Masahiko Takada
"Sporadic Premature Aging in a Japanese Monkey: A Primate Model for Progeria"
PLOS ONE Volume 9 Issue 11 e111867 Published: November 03, 2014
掲載情報
- 朝日新聞(11月4日 3面)、京都新聞(11月4日 23面)、産経新聞(11月4日 26面)、中日新聞(11月4日 25面)、日本経済新聞(11月4日 9面)、毎日新聞(11月4日 26面)、読売新聞(11月4日夕刊 13面)および科学新聞(11月21日 2面)に掲載されました。