生体タンパク質反応の鍵となる「揺らぎ」検出に成功 -新規薬剤探索の新指針に期待-

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寺嶋正秀 理学研究科教授、黒井邦巧 同博士課程学生らは、徳富哲 大阪府立大学教授、岡島公司 同博士研究員、池内昌彦 東京大学教授らとともに、タンパク質の化学反応の中に現れる分子の揺らぎを実時間で観測することに成功しました。

この結果、反応中間体で揺らぎが大きくなると反応するが、揺らぎを小さくすると反応しなくなるという、揺らぎと反応性の相関を直接実証することができました。これは、新規薬剤探索の新指針となることに期待されます。

本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。

研究者からのコメント

左から寺嶋教授、黒井博士課程学生

私たちのグループでは、反応とともに変化する熱力学量を時間分解観測する手法を開発しております。これまでエンタルピーや分子体積、熱膨張係数、熱容量などの変化を時間分解測定することに成功しています。しかし、「揺らぎ」という、ある意味捉えどころのない量を、圧縮率変化として時々刻々と観測するためにはかなりの苦労がありました。装置だけでなく解析法や反応系について、いろいろと克服すべき点が多々あり、この手法開発を始めてからすでにかなりの年月が経ちましたが、ようやく、タンパク質反応に対して観測することに成功し、短寿命中間体における揺らぎ増大を実際に示すことができました。

今後、この手法を他の反応系に対して適用して行く予定ですが、生体分子の機能と同等である反応と「揺らぎ」の相関を普遍的に解明することは、⽣命分⼦の機能制御の本質を解明することにつながると考えています。それはまさに動き(「揺らぎ」)という観点から機能(病気を含む)を理解し、制御する(治療する)ことにつながると⾔う意味で、⾮常に重要となります。

概要

生命活動を支えているのは、多くの場合、タンパク質の化学反応です。この化学反応がどのように起こっているかを知ることは、生命現象を分子的に理解するために必須であると同時に、医療や製薬の分野でも大切な問題です。例えば、ある病気があるタンパク質の働きで起こるときには、そのタンパク質の働きを抑えるような薬があればよいことになります。このようなタンパク質の働きを理解するために、従来は「鍵と鍵穴モデル」というモデルが使われていましたが、近年そうした形からの議論だけでは不十分な場合が見出されてきました。

そうした点を克服する概念が、「反応するためには構造がふらふらとしていることが必要である」という「揺らぎ」のモデルです。実際、これまでもタンパク質の安定性を下げると反応しやすくなるなどの知見が得られていましたが、実際に反応している最中の「揺らぎ」を観測する手法がなく、このモデルの真の検証にはなっていませんでした。

そこで本研究グループは、反応している最中の「揺らぎ」を時々刻々と追跡する手法を開発し、10ナノ秒(10 -8 秒)ほどのパルスで光を出すレーザーを用いることで、この熱力学量の短い時間での時間発展を直接観測することに世界で初めて成功しました。この観測手法を開発することによって、初めて反応とともに変わる圧縮率、つまりは「揺らぎ」の追跡が可能となりました。

さらに、この手法を用いることで、タンパク質反応の途中に現れる中間体で「揺らぎ」がどのように変わるかを観測することに挑戦しました。その結果、この手法で青色光を感知するタンパク質の反応中間体の「揺らぎ」を求めることに成功し、中間体では「揺らぎ」が実際に大きくなっていることを示すことができました。さらに、光強度を制御することによって、「揺らぎ」を小さくすると反応が起こらなくなることを見い出しました。すなわち、この結果は中間体で発生する「揺らぎ」が反応を引き起こす駆動力であることを示唆しており、「揺らぎ」が実際に反応過程に関与していることを直接的に示すことに世界で初めて成功したものです。

図:TePixDと呼ばれる光センサーであるタンパク質の反応と「揺らぎ」。このタンパク質TePixDは、分子が10個結合した形で存在する。光強度の反応条件によって「揺らぎ」を制御することができ、それによってタンパク質を反応させたり、反応しなくさせたりすることができる。

詳しい研究内容について

生体タンパク質反応の鍵となる「揺らぎ」検出に成功 -新規薬剤探索の新指針に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1413222111

Kunisato Kuroi, Koji Okajima, Masahiko Ikeuchi, Satoru Tokutomi, and Masahide Terazima
"Transient conformational fluctuation of TePixD during a reaction"
PNAS published ahead of print September 29, 2014

掲載情報

  • 中日新聞(10月19日滋賀版 23面)および日刊工業新聞(10月1日 23面)および科学新聞(10月31日 4面)に掲載されました。