タンパク質分解装置の活性低下が細胞死を引き起こす初期経路の同定と食品成分による回復

ターゲット
公開日

2014年7月31日

阪井康能 農学研究科教授、寳関淳 学際融合教育研究推進センター特定准教授らの研究グループは、細胞内のタンパク質分解装置であるプロテアソームの活性低下が細胞死を引き起こすメカニズムの解明に成功しました。今後、老化に伴う神経変成疾患の予防という観点から、ミトコンドリアの機能障害を抑制するあるいは予め予防する食品成分(レスベラトロール・セサミン)や医薬品の摂取が効果的になることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」誌オンライン版にて公開されました。

研究者からのコメント

左から阪井教授、寳関特定准教授

老化に伴うプロテアソーム活性の低下は、細胞死を引き起こし、神経変成疾患の原因となると考えられています。今回、プロテアソーム活性阻害の初期にミトコンドリアの機能障害がおこること、食品由来の抗酸化剤であるレスベラトロール、セサミンがこのミトコンドリアの機能障害を防ぐことで、細胞死を抑制することを明らかにしました。したがって、老化に伴う神経変成疾患の予防という観点から、ミトコンドリアの機能障害を抑制する、あるいは予め予防する食品成分や医薬品の摂取が効果的ではないかと考えられます。

今後、レスベラトロールやセサミンと同様の活性を持つ化合物や食品成分の探索とプロテアソームの阻害に伴うミトコンドリアの機能障害が生じるメカニズムを明らかにすることで、より的確で精度の高い神経変成疾患の予防方法の開発につながるものと考えています。

概要

分解される必要があります。このような構造異常タンパク質は、細胞内のタンパク質分解装置であるプロテアソームで分解されますが、老化に伴いプロテアソームの活性が低下することが知られており、そのために異常な構造を持ったタンパク質が蓄積することで細胞死を引き起こし、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の原因となることが知られています。しかしながら、プロテアソームの活性低下が細胞死を引き起こすメカニズムは明らかになっていませんでした。

今回は、本研究グループが以前開発した、細胞内の酸化還元状態を可視化できる蛍光プローブRedoxfluorを用い、老化のモデルとしてのプロテアソーム活性を阻害した条件で細胞内の酸化還元状態を計測したところ、細胞内に酸化ストレスが生じ、やがて細胞死に至ることがわかりました。プロテアソーム阻害条件下で食品由来の抗酸化剤でポリフェノールの一種であるレスベラトロールを細胞に添加したところ、細胞内の酸化ストレスを抑制したうえで、細胞生存率を回復させました。

さらにレスベラトロールは、細胞内において活性酸素を発生する主要な細胞内小器官であるミトコンドリアの障害を防ぎ、その活性酸素産生を抑制していました。また、プロテアソーム阻害条件下でミトコンドリアの酸化還元状態を計時的に調べたところ、細胞全体よりも先に酸化されることがわかりました。したがって、プロテアソーム阻害条件下では、まずミトコンドリアの機能障害が生じ、それに伴い生じる活性酸素が細胞に酸化ストレスを引き起こし、細胞死に至ることがわかりました。また、レスベラトロールやセサミンのような抗酸化剤の添加は、ミトコンドリアの機能障害を抑制することでプロテアソーム阻害に伴う細胞死を抑制できることがわかりました。このような抗酸化剤の作用と細胞死の関係とそのメカニズムについて、細胞レベル、しかも微細な細胞内小器官レベルで可視化することにより解明することができたことになります。

図:プロテアソーム活性低下による細胞内酸化・細胞死の機序とミトコンドリア局在型抗酸化化合物による細胞死抑制の機構

詳しい研究内容について

タンパク質分解装置の活性低下が細胞死を引き起こす初期経路の同定と食品成分による回復

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep05896

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/189265

Sunita Maharjan, Masahide Oku, Masashi Tsuda, Jun Hoseki & Yasuyoshi Sakai
"Mitochondrial impairment triggers cytosolic oxidative stress and cell death following proteasome inhibition"
Scientific Reports 4, Article number: 5896 Published 31 July 2014

掲載情報

  • 朝日新聞(8月1日 4面)、京都新聞(8月1日 26面)、産経新聞(8月1日 26面)、日刊工業新聞(8月1日 23面)および毎日新聞(8月1日 23面)に掲載されました。