2014年7月9日
萩原正敏 医学研究科教授らの研究グループは、東京医科歯科大学、株式会社キノファーマと共同研究を行い、画期的な次世代抗ウイルス薬候補化合物を見出しました。
本研究成果が「The Journal of Clinical Investigation」誌に掲載されることになりました。
研究者からのコメント
薬やワクチンなどの治療法がないウイルス性疾患は数多く存在し、また従来の治療薬に耐性を有するウイルスの報告も増えつつあります。
私たちのグループが研究開発している新しい抗ウイルス薬FIT-039は、ウイルスRNA合成に必要な宿主蛋白質CDK9を標的としているため、広汎なウイルス性疾患の治療薬となる可能性があるばかりでなく、既存薬に耐性を有するウイルスに対しても効果が期待できます。既に動物レベルでの実証研究を終え、臨床への応用が可能な段階となりつつあります。新興感染症など新たなウイルスの脅威に対抗するためにも、一刻も早い実用化に向けて努力を続けています。
概要
従来の抗ウイルス薬はウイルスのタンパク質を薬効標的としているため、薬が効かない「耐性」を獲得したウイルスの出現が臨床現場で問題となっています(図1)。本研究グループは、宿主タンパク質「CDK9」の活性を阻害すると、感染したウイルス増殖は抑制されますが、宿主の細胞では別のタンパク質が同様の機能を代替できるため、細胞増殖などには影響がないことを見出しました。そこでこの「CDK9」を薬効標的として創薬開発研究を行い、次世代抗ウイルス薬「FIT-039」を見出しました(図2)。「FIT-039」は、「CDK9」を選択的に阻害することによりさまざまなウイルスの増殖を抑制しました。さらに、従来の抗ウイルス薬「アシクロビル」が効かないアシクロビル耐性ヘルペスウイルスを感染させたマウスに対しても、「FIT-039」は治療効果を示しました(図3)。
従来の抗ウイルス薬に比べて、「FIT-039」は以下の優れた特徴を有しています。
- 広汎な抗ウイルススペクトラムを有する。
- 従来の抗ウイルス薬耐性ウイルスにも薬効を示す。
- 「CDK9」を選択的に阻害しているため副作用がない。
これらのことから、「FIT-039」は次世代抗ウイルス薬として臨床現場からの期待も高く、海外からも注目を集めており、京都大学医学部附属病院と連携して臨床研究の準備を進めています。
(図1)は従来抗ウイルス薬の問題点、(図2)は次世代抗ウイルス薬の特徴、(図3)は従来薬耐性ヘルペスウイルス皮膚感染マウスモデルにおける治療効果を、それぞれ示す。
詳しい研究内容について
CDK9阻害剤「FIT-039」はさまざまなDNAウイルスの複製を阻害する
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1172/JCI73805
Makoto Yamamoto, Hiroshi Onogi, Isao Kii, Suguru Yoshida, Kei Iida, Hiroyuki Sakai, Minako Abe, Toshiaki Tsubota, Nobutoshi Ito, Takamitsu Hosoya, and Masatoshi Hagiwara
"CDK9 inhibitor FIT-039 prevents replication of multiple DNA viruses"
The Journal of Clinical Investigation Published July 8, 2014
掲載情報
- 朝日新聞(7月9日夕刊 10面)、京都新聞(7月9日夕刊 10面)、産経新聞(7月9日夕刊 8面)、日刊工業新聞(7月11日 17面)、日本経済新聞(7月10日 14面)、読売新聞(7月21日 16面)および科学新聞(8月8日 2面)に掲載されました。