2014年5月2日
高田穣 放射線生物研究センター教授、海野純也 同研究員らの研究グループは、小児遺伝性疾患「ファンコニ貧血」(FA)の病態の解明を目指しており、今回、ファンコニ貧血に関連したキー分子であるFANCD2が、DNA修復機構において中心的役割をはたすCtIPタンパク質を結合し、その制御を行うことを発見しました。
本研究成果は、米国科学誌「Cell Reports」に掲載されることになりました。
研究者からのコメント
CtIPタンパク質は放射線などによるDNAの損傷の修復において、中心的な役割を持つことが最近明らかとなり、大変注目されている分子です。今回の発見は、「ファンコニ貧血症」病態理解への貢献にとどまらず、放射線応答におけるCtIPの制御メカニズムの正確な理解にも寄与すると考えられます。
FANCD2を中心とした「ファンコニ貧血症」病態の完全な理解にむけて、今後も努力を継続します。
概要
小児の再生不良性貧血、急性骨髄性白血病、がんの重要な原因である遺伝性疾患「ファンコニ貧血症」は、まれながらDNA損傷修復の欠損による典型的な病態として有名であり、「家族性乳がん」と原因遺伝子が共通であることなどから、学術的な重要性が高く、注目されている疾患です。
本研究グループは、「ファンコニ貧血症」の病態形成の中心となるキー分子、FANCD2タンパク質が結合する分子をプロテオミクス手法により解析し、パートナーであるFANCIタンパク質のみならず(ID複合体と呼ばれています)、DNA損傷修復において重要なCtIPタンパク質が結合していることを発見しました。この発見は、DNA損傷によって、ID複合体にユビキチンと呼ばれる小さいタンパク質が結合し、さらにそこにCtIPが結合してくることを意味しています。
これに加えて、研究グループは、さまざまな手法により、FANCD2がCtIPを制御することがDNA修復において重要なステップとなっていることを確認しました(下図)。
病態の解明は、ファンコニ貧血のような遺伝性難病やがんの新しい診断治療法の開発に必須です。この成果は、骨髄における造血幹細胞の維持と白血病化を防ぐしくみである「DNA損傷修復」の具体的メカニズムを明らかにし、病態の理解をさらに深めるために有意義であると考えています。
図:FANCD2とCtIPの関わるDNA修復のステップ
FANCD2とFANCIにより形成されるID複合体はDNA損傷に応答してユビキチン化され、DNA切断のはさみとして機能するFAN1タンパク質、SLX4-XPF複合体をリクルートします。それとは独立に、今回発見されたCtIPタンパク質もリクルートされます。その後、FAN1とSLX4などの働きでDNAが切断され、その後、CtIPが切断された末端を削り込みます。削り込みステップは、その後のDNA相同組換えのための必須のプロセスです。
詳しい研究内容について
小児の遺伝性疾患「ファンコニ貧血」病態の完全解明への一歩 ~キー分子FANCD2に会合するCtIPタンパク質の同定~
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2014.04.005
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/186786
Junya Unno, Akiko Itaya, Masato Taoka, Koichi Sato, Junya Tomida, Wataru Sakai, Kaoru Sugasawa, Masamichi Ishiai, Tsuyoshi Ikura, Toshiaki Isobe, Hitoshi Kurumizaka, Minoru Takata
"FANCD2 Binds CtIP and Regulates DNA-End Resection during DNA Interstrand Crosslink Repair"
Cell Reports 7, pp. 1–9, May 22, 2014
掲載情報
- 京都新聞(5月2日 23面)に掲載されました。