パタスモンキーの人為的環境への適応性 燃えたての野焼き地へ群れで駆けつける

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 今日の野生生物の多くは、多少なりとも人間活動の影響を受けた環境に生息している場合がほとんどです。霊長類研究においても、こうした人為的な環境変化に対して霊長類がどのように適応しているのか関心が高まってきています。

 半沢真帆 理学研究科博士課程学生、中川尚史 同教授、森光由樹 兵庫県立大学准教授、Erasmus H. Owusu ガーナ大学教授、Richard D. Suu‑Ire 同上級講師らの研究グループは、ガーナのモレ国立公園に生息するパタスモンキーにおいて、毎年乾期に行われる野焼きに対してどのような行動適応が見られるのか明らかにすべく、群れのオトナ個体ほぼ全頭にGPS発信機を装着し、直接観察と組み合わせて彼らの行動を調査しました。その結果、群れは特に火入れ直後の新しい野焼き地に、焼かれた種子や昆虫を採食しに訪れていたことが分かりました。さらに、その場所へ向かう時は、通常の採食場へ向かう時よりも、到着1時間前からより速く、かつ群れの個体間で移動速度や移動方向を同調させて向かうことが明らかとなりました。本研究は、これまで生態系にとって有害な側面が強調されてきた野焼きが、場合によっては動物に採食上の利益をもたらすことを示し、人為的な環境に対して柔軟に適応する霊長類の可塑性の高さを理解する一助となります。

 本研究成果は、2024年2月6日に、国際学術誌「Primates」にオンライン掲載されました。

パタスモンキーの人為的環境への適応性 燃えたての野焼き地へ群れで駆けつける
ガーナ・モレ国立公園に生息するパタスモンキーのオトナメス
研究者のコメント

「本研究は、大学学部時代からの夢でもあった、アフリカのサバンナでの研究を実現させるため、新たな地での挑戦として群れの人づけや識別を一から行い、計1年間の長期調査のなかで取り組んだ集大成の一つです。乾期に行われる野焼きによって立ち上る黒煙に向かって、群れでまとまってまっしぐらに移動するパタスモンキーの様子はとても印象的で、なぜこんなにも積極的に向かうのかと疑問に思いました。時には日中40℃を超える猛暑のなか、煙や火に囲まれる恐怖におそわれながら必死に追った努力の甲斐があり、彼らが野焼き地を採食場として積極的に利用し、そこに辿り着くまで群れでまとまった移動をすることを量的に示すことができました。今後も、フィールドでの発見や印象をもとに新しい着眼点を求めながら、その発見を一つの学問領域だけでなく、保全分野など実践の場にも活かせるような野生動物の研究をしていきたいです。」

研究者情報
研究者名
半沢 真帆
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1007/s10329-023-01113-5

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/287111

【書誌情報】
Maho Hanzawa, Yoshiki Morimitsu, Erasmus H. Owusu, Richard D. Suu-Ire,
Naofumi Nakagawa (2024). Rushing for “burned” food: Why and how does a
group of patas monkeys (Erythrocebus patas) reach freshly burned areas?.
Primates, 65(2), 103–113.