ステップ I では相談者と最初に接する時、ステップ II では事情を聴く時、そしてステップ III では問題の解決に当たる時の対応について述べてあります。相談を受ける際の参考にしてください。
ステップ0
相談を希望している人にとって、どうやったら相談しやすい窓口になるでしょうか。まず誰が相談員であるかを周知徹底するとともに、相談に行きやすい工夫がいります。また、身近な窓口である部局窓口では、日頃から、「あの人なら相談に行ってもいいな」という信頼される言動が問われます。相談員は、職場、研究室、大学からセクシュアル・ハラスメントなどをなくしていく上で、大切な役割を担っているのです。
ステップ I
相談者は身近に相談できる人を見いだせず、困り果てて、疲れ切っている場合が多い。相談者の不安と緊張をほぐし、相談者が話しやすい雰囲気、環境をつくることを目標に対応する。
1. 自己紹介を丁寧に行う。
「私は……の……と申します。普段は……の仕事をしています。どうぞよろしくお願いいたします。」のように、自己紹介をします。
まず、相談に訪れた人(相談者)に対して、自分の所属や名前、日頃行っている職務の概要を丁寧に伝えます。相談員が自分のことを明らかにすることが、相談者の不安と緊張をやわらげますので、対応の第一歩として自己紹介を丁寧に行います。
2. プライバシーの保護について約束する。
「相談に関するあなたのプライバシーは完全に守られています。もし私(たち)以外の第三者に情報を伝える必要がある場合(所属の長や人権問題対策委員会へ報告する場合など)には、あなたにその理由と目的を説明し、どういう情報を誰に伝えるかということをあなたに明らかにします。そして、あなたの了承が得られてから第三者に伝えます。」のように、プライバシーが保護されていることを伝え、相談者に安心感を与えます。
相談者が希望した場合には1名で対応することもできますが、原則として相談員は2名で対応しなければなりませんので、2名で対応する場合には特にその不安を取り除くようはっきりと伝えます。
3. 相談に訪れた事情のあらましを尋ねる。
「あなたが、ここに相談にいらっしゃった事情について教えてくださいますか?」のように、相談に訪れた事情のあらましを尋ねます。
相談者は「相手は自分のことを理解してくれないのではないか?」という不安や恐れ、不信感を抱いていることが多く、はじめは厚い鎧を身にまとっていますので、それを無理矢理に剥ぎ取ることのないよう、最初から根掘り葉掘り尋ねることは控えます。
まず相談内容の概略を把握するよう努め、詳細な内容を聴くことは後回しにします。
4. 相談者の苦悩への理解を伝える。
「それは本当に嫌なことでしょうね」「本当に辛いでしょうね」「その苦しみを今まで一人で抱えてこられたのですね」などのように、相談者の苦悩への理解を伝えます。そして、勇気を出して相談に訪れたことを、ねぎらうようにします。
5. 複数で相談に応じていくことを伝える。
「これから相談を進めていきますが、私以外にも、もう一人相談員に同席してもらおうと思うのですが、よろしいでしょうか。」のように、2名の相談員で対応していくことを伝えます。
男女2名の相談員で対応することが原則となっており、2名の方がより適切かつ公正な対応が可能となります。
相談者の希望により直接話を聴くのは自分一人という場合でも、迅速かつ適切に対応するためには、他の相談員の支援が必要であることを説明し、了解してもらいます。
特に相談者が精神的にかなり不安定になっていたり、追いつめられた状態になっているときには、カウンセリングセンターの相談員や学内診療所との連携が必要になります。
6. 手紙、電話、電子メールによる相談の場合
相談者が手紙や電話や電子メールを用いて相談を申し出てくる場合があります。相談者から申し出があったら、前述した1~5により対応し、相談日時、場所、相談に応ずる人数などの希望を聴き、調整します。
ただし、後述するステップ II からは直接会って相談を受けることが原則です。手紙や電話や電子メールでは、交わされる情報が音声あるいは文字に限定されるので、思わぬ誤解や食い違いが生じ、結果として相談者及び相談員の双方が傷ついてしまうことが多々あります。手紙や電話や電子メールでの相談を強く求められても、きちんと理由を説明し、直接相談に出向いてもらうよう促します。
7. 相談の内容は必ず記録に残す。
相談の内容は記録に残すことになっていることを相談者に説明し、了解を得ておきます。
面談の内容は、忘れないようにその日のうちに必ず記録します。
面談の際に相談者から聴取した内容と、こちらから相談者に告げた内容を相談日誌に正確に記録しておき、後で整理して記録簿に記録します。
ステップ II
事情の詳細を聴き、正確に理解することを目標に対応する。
1. 詳細な事情を尋ねる。
相談に訪れた事情の詳細を尋ねます。
いつ、どこで、誰との間で、どういうことが起こって、それを相談者はどのように感じているのか、そして今、相談者が求めていることは何なのかを尋ね、そうした事柄を正確に理解することが必要です。
正確な理解は、それだけでも相談者の精神的な苦痛を和らげるという治療的な効果を持っていますし、以後の適切な対応を行うための大前提となります。
2. 話を聴く時間は1回につき50分程度が適当です。
私たちの集中力が持続するのは1時間以内です。話を聴く時間は1回あたり50分程度にとどめます。時間が足りないときには、日を改めて話を聴くようにします。一回に何時間も話を聴くよりは、50分程度、何回かに分けて話を聴く方が効果的です。
もし、それに対して相談者が抵抗し、「もっと話を聴いて欲しい」と強く訴える場合は、相談者が精神的に混乱している可能性が高く、言われるままに何時間も話を聴き続けていると、ますます混乱状態がエスカレートしていくだけです。そういう時ほど毅然とした態度で前述した理由を説明し、「今日はここまでにします。次にお話を伺う日を決めましょう。」と、優しく、かつ、きっぱりと話を打ち切ることが大切です。
3. 再確認しながら聴く。
ただ相槌だけを打ちながら話を聴くよりも、「……なのですね」「……という意味ですね」「……で……なのですね」などと、話の内容を確認しながらゆっくりと聴いていきます。確認を怠って誤解するよりも、しつこいぐらい確認して、正しく理解することが大切です。ただし時には、相談者の記憶があやふやになってしまっていることもあり得ます。慌てすぎないように。また、客観的事実かどうかの確認よりは、相談者の言い分を十分に聞きます。
4. 相手を責めない。
「なぜ抵抗しなかったのですか?」「なぜ嫌だと言わなかったのですか?」「なぜそんな所に行ったのですか?」「なぜそんなになるまで黙っていたのですか?」などと、相談者を責めないことが大切です。
性的な被害にあった人の多くが、そのことを知った家族や友人などから、そのようなことを言われ傷ついていることがあります。抵抗したり、拒絶したり、逃げ出したりすることができないところに、セクシュアル・ハラスメントの問題の本質があるのです。
ステップ III
暖かい気持で、焦らず、冷静に、公平に判断し、相談者の苦悩を解決することを目標に対応する。
1. マニュアルのない世界
一般的に言えることですが、悩み事を解決するための万全の「マニュアル」というものは存在しませんので、あれこれ考えながら手探りで進んでいくより他に道はありません。
がんばったからといって必ずしも成果が上がるとは限りませんし、一刀両断に「えいっ!やあーっ!」と格好良く解決できることも100%ありません。
相談者も相談員も「簡単に思い通りにはならない」ということを肝に銘じておくことが必要です。
2. 冷静さと思いやり
解決が困難な悩み事は私たちを不安に陥れます。そして、私たちは不安になればなるほど居ても立ってもいられなくなり、その不安を一刻も早く解消しようとして、思い切った行動で一挙に解決を図ろうとしてしまいがちです。
しかし、そうした行動は「冷静な思考」という回路を通っていませんので、たいていの場合、事態をよけいに混乱させ、不安がますます大きくなるという悲しい結果をもたらします。
迅速な対応は不可欠ですが、一方からの申し立てのみで外的な行動にでるのは厳禁です。
3. 窓口相談員の仕事は「裁くこと」ではない。
相談員の仕事は、解決困難な問題に直面して困っている人の話を聴き、慰め、元気づけ、その問題が少しでも改善されるよう一緒に考え、適切な援助の手をさしのべるというサービスを提供することです。
加害者とされる者を憎んだり、恨んだり、攻撃したりすることは相談員の仕事ではありませんし、その者を裁くことも相談員の仕事ではありません。感情に流されることは禁物です。
「どのようにすれば問題が改善されるのか?」ということを中立的な立場から客観的に考え、冷静に、粛々と対応を進めて行くことが求められます。相談員の仕事は「裁くことではない」ということを肝に銘じておくことが必要です。
4. 加害者とされる人に会う時
相談者に依頼されて、あるいは事実関係を確認するために加害者とされる人に会う必要が生じることもあります。このような時は、各部局の窓口相談員全員や所属の長などとも話し合って、役割分担も含む”チーム”をつくるべきです。あるいは、部局ではっきり調査委員会を設置すべき時かもしれません。
5. ひとりで抱え込まない。(一人で事情を聴くこととなった場合)
難しい問題を一人で抱え込むのは大変です。相談者の了承を得て、他の相談員にも仲間になってもらい複数で対応策を検討します。皆で知恵を絞れば何かよいアイデアが出てくるはずです。それに当事者に直接会わない相談員を仲間に加えておくと「水をさす役割」を担ってもらえますので、より冷静に対応を進めていくことができます。
原案: 島根大学 山本 大介
部分的改訂: 京都大学 青木 健次