2024年春号
施設探訪
桂キャンパス内の5つの図書室を集約し、2020年4月に開館した桂図書館。コロナ禍での制限つきの開館を経て、2023年度に全館・全機能を解禁。桂キャンパスの交流の核として、新たなスタートをきった。「研究者の多い桂キャンパスならではの機能がもりだくさんです」と胸をはる桂図書館長・岸田潔教授の案内で、光あふれる桂図書館を巡った。
岸田 潔
きしだ・きよし
工学研究科教授
京都大学大学院工学研究科修士課程終了。博士(工学)(京都大学)。京都大学大学院工学研究科准教授などを経て、2017年から現職。2020年から桂図書館の館長を務める。専門は地盤工学、岩盤工学など。
図書館といえば、静かに集中して読書や調べものをする場所というイメージをもつ人が多いはず。桂図書館が目指すのは、そんな従来の図書館の姿とは違う「ワイワイガヤガヤ」と交流が生まれ、人が行き交う場所。
岸田● 桂キャンパスは、工学部と工学研究科の学び・研究の場。研究者の割合が多いキャンパスの特性にあわせて、研究支援のサービスを充実させています。もちろん静かに過ごせる場所も設けていますよ。
建築デザインは、京都大学名誉教授の岸和郎先生によるもの。正面入口はガラスの吹き抜けの天井。扉や壁にもガラスが多用され、のびやかで開放感のある空間が印象的。館内のどの場所にも光が差し込み、外の景色を楽しめる。
岸田● 私のお気に入りは、2階のリサーチコモンズ。研究会などの来場者にも自信をもって紹介しています。でも、セミナーよりも外の景色に集中してしまうという声も(笑)。
桂キャンパスでは、キャンパス全体を展示場と考えて、工学研究科の「研究のタネ」を可視化し、発信する「テクノサイエンスヒル桂」構想が進行中。キャンパスを訪問するだけで「研究のタネ」に出会えることを目指す。桂図書館はその拠点だ。
「桂の庭」は研究シーズを発信して、研究者同士はもちろん、研究者と社会とをつなぎ、研究の新しい展開をサポートする試み。
岸田●
工学研究科は研究室の数が多く、専門分野も細分化しています。隣の研究室であっても研究内容をよく知らないこともあるんです。さらに、キャンパスが離れていますから、工学の研究が他学部の人たちに届きづらいという難点も。桂図書館に来れば工学の研究に触れられる、〈カタログ〉のような場所になってほしい。欲しい情報を探すだけでなく、想定外のものと出会える場になることを期待しています。
WEB▶https://seeds.t.kyoto-u.ac.jp/
桂図書館を散策しながら、研究に関する実物資料やデータ、動画、関連書籍などを閲覧できる。展示は約4か月ごとに入れ替わり、毎期約7〜8名の研究者を紹介。
岸田●
最新の「タネ」を動画で紹介しています。「工学ってなに? 理学との違いは?」と迷う高校生に見てほしい。工学の研究対象は幅広いですから、オープンキャンパスなどの見学だけでは掴みきれない。工学の一端を深く知る手がかりになるはずです。
ちなみに……動画は桂図書館内のメディアクリエーションルームの機材を使って撮影·編集されている。「グリーンバックのあるスタジオも備えていますから、講義動画の撮影などが可能です」。
タネが育てば、実ができる。研究発表会「桂の実(みのり)」や産官学連携イベントを実施。
桂キャンパスでは広い敷地を利用して、いくつかの実装·実証実験が進行中。桂図書館はその拠点としてさまざまな実験が進められている。たとえば……
荷物の運搬などの職員の業務を支援。ロボットへの人間の反応も調査する。
図書館屋外の斜面に、土壌の水分量を測る機器を設置。斜面災害に関する警告アラートの開発に利用される予定。
桂図書館は、京都大学の全学図書館機構の一つ。桂図書館には京都大学のオープンアクセス、オープンデータの拠点としての機能が求められる。
岸田● 学術論文や研究で得たデータを世界に向けてストレスなく公開するメリットは多く、新たな共同研究の創出も期待されます。全学に先駆けて、実践を進めたいです。
正面入り口の銘板にも使われているロゴタイプは、京都大学附属図書館所蔵の国宝『今昔物語集(鈴鹿本)』から集字したもの。桂キャンパスの看板や各所の銘板の〈京都大学〉の文字に『今昔物語集(鈴鹿本)』から集字した文字が使われている。
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