2017年秋号
京都大学をささえる人びと
雜賀真梨さん
京都大学保健診療所(環境安全保健機構 健康管理部門) 保健師・看護師
日本初の「大学生のための保健医療施設」として、1908年に開設された医員室と病室を前身とする京都大学保健診療所。現在は環境安全保健機構健康管理部門により運営され、併設の健康科学センターと連携して学生と教職員の健康をささえている。その最前線で奮闘中の看護師の雜賀真梨さんをたずね、活動に込める想いをうかがった
吉田キャンパスの正門を入って左手、カフェレストラン「カンフォーラ」の西どなりに居をかまえる京都大学保健診療所。内科と神経科を設け、ふだんは京都大学の学生と教職員の相談・診察を受けつける。「もちろん、きゅうに具合が悪くなった場合などは、学外の方でも人道的な見地から診察しています」。
オーストラリアの医療・福祉施設で働いたこともある雜賀真梨さんは、その経験を活かし、保健診療所の看護師となった。「留学生はもちろん、学会などで来学された海外の研究者を診察することも少なくありません。海外で医療機関にかかる不安は私もわかりますから、その不安をやわらげるサポートができたらと思います」。
「京都大学の学生さんは健康のたいせつさを理解しています。その反面、すこしまちがった知識を信じこんで実践してしまう人や、必要以上に『健康であること』を意識しすぎて、不安をみずから生みだしている人を見かけます」。ホームページやニュースレター、健康診断を通じて健康に関する正しい知識を広めることも保健診療所の重要な仕事だ。「在学中に健康に向きあう姿勢を身につけ、卒業後も自分の健康状態を正しく判断できる、自立した人間になってほしいと願っています」。
研究や実験に没頭しすぎて生活のリズムが乱れたり、論文や就活に追われて体調やこころのバランスを崩したり、学生や研究者ならではのライフスタイルが原因で体調を崩す人も多い。「将来どうしたいのかや、なにを楽しみに生きてゆきたいのかなど、相手の想いによりそって、カウンセリングをしながら診療にあたることもよくあります」。
これからは「予防医療」、「健康増進」の時代。具合が悪くなってから医療機関にかかるのではなく、具合が悪くならないようにふだんから気をつけること、前向きに健康づくりをすすめることが重要だという。「病院では何人もの患者さんが生活習慣病で亡くなるのを看取ってきました。生活習慣病は日々の悪い習慣のつみかさねが発症リスクを高める原因になります。若いうちから健康意識を高めて、元気に長く活躍してもらいたいですね」。
この春から力を入れているのが、継続的な個別の保健指導のシステムづくり。健康診断の結果、生活習慣病のリスクが高いと診断された人を対象に、保健診療所の医師との面談をとおした二人三脚で、病気になるまえに手を打とうという取り組みだ。「定期的に面談に来てもらえるように、健康状態が着実に改善していることをわかりやすく伝えるなど、本人のやる気と自覚をひきだすくふうをしています」。
2017年度からは新たに、ヘルシーキャンパス運動と銘打って、学内にとどまらず、社会に向けて健康増進の重要性を発信する取り組みをスタートした。「保健診療所は医療機関であると同時に、京都大学という教育研究機関の一部でもあり、情報発信が求められます。学生や教職員はもちろん、地域の人びとの健康づくりにどのように貢献するかを考えています」。
健康だったからこそ、充実した学生生活を送ることができたという雜賀さん。「勉強も研究も仕事も、すべてカラダが資本。心身の健康を維持できれば、新しいことにどんどん挑戦できます」。
さいが・まりん
1984年に京都府に生まれる。大阪大学医学部保健学科卒業後、大阪厚生年金病院(現・大阪病院)、オーストラリアでの看護インターンシップをへて、2015年から現職。