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2017年春号

巻頭特集 「教養・共通科目」潜入レポート

〈教養〉の大地を耕して好奇心の種を育てよう

大学での学習と高等学校までの授業との大きな違いは、それぞれの興味や関心ごと、めざす進路に照らして、時間割をみずから組みたてること。おしきせの時間割から解放されて、「大学生って自由だな」と感じる学生もいるだろう。でも、1日、1週間、1年をどう充実させるのかも自分しだい。

いずれの学部に入学しても、かならず取得しなければならないのが、「教養・共通科目」の単位。開講数はなんと868科目、のべ3289クラスにもおよぶ。それぞれの学問分野の厳しさも愉しさも知る教員たちが、とっておきの講義をくり拡げる。少人数でじっくりと議論を深める科目もあれば、実験室で黙々と手を動かしつづける科目もある。1コマは90分、すべて英語だけの授業もあれば、フィールド・ワークの精神で学外に飛び出す科目もある。

教員が講義に情熱を注ぐのはなぜだろう。一人前の人間として芽吹き、成長し、花を咲かせて結実するには、学生時代の出会いや素朴な好奇心、鮮やかな刺激、はば広い教養こそが、なによりの栄養分になることを知っているからだろうか。学術研究の世界に深く根を張り、枝を大きく拡げるには、肥えた大地が必要だ。教養・共通科目の真価はそこにある。


教養・共通科目 8つの群

人文・社会科学科目群

学問分野:哲学・思想/歴史・文明/芸術・文学・言語/教育・心理・社会/地域・文化/法・政治・経済/日本理解/外国文献研究

基礎知識や方法論を講義する「基礎」と、踏みこんだ内容をあつかう「各論」の2段構えで開講。

自然科学科目群

学問分野:数学/統計学/物理学/化学/生物学/地球科学/図学

理科系学部で学ぶための「基礎科目」と「教養科目」とがあり、教養科目には文系学生を対象とする講義もある。

外国語科目群

英語と9つの初修外国語(独、仏、中、露、伊、西、朝鮮、アラビア、日本〈外国人留学生のみ対象〉)で構成。

情報学科目群

情報の探し方や情報リテラシー、情報と社会の関わりなど、情報化社会で求められる技能や知識を習得する。

健康・スポーツ科目群

健康・スポーツ科学とスポーツ実習からなる。健康、医療、介護について学ぶ科目も充実。

キャリア形成科目群

コンプライアンスや国際コミュニケーション、学芸員課程、国際交流など、将来のキャリアに関連した科目を学ぶ。

統合科学科目群

環境・エネルギー、自然災害、人口動態といった現代社会が直面する複合的な課題を、文系・理系双方の教員をまじえた対話型授業をとおして、多様な視点から検討する。

少人数教育科目群

少人数で担当教員とともに、興味のある内容についてじっくりと学ぶ。あつかうテーマは多様で、2016年度は292クラスが開講。


地図にのこされた歴史の痕跡をたどる アイキャッチ画像

「教養・共通科目」潜入レポート 人文・社会科学科目群〈分野〉地域・文化

地図にのこされた歴史の痕跡をたどる

山村亜希准教授 イラスト

山村亜希准教授
人間・環境学研究科 共生文明学専攻文化・地域環境論講座

現代にくらす私たちが、ある〈地域〉の特徴を語るとき、その土地の歴史と切り離すことはできない。〈地域〉は、地形や地質などの地理的な条件、地震や水害などの自然災害による変化だけでなく、時の為政者による大規模な開拓や土木工事、住民たちが生き抜くための知恵など、人間社会が長い歳月をかけて形づくってきたもの。そうした土地の〈個性〉は、現代にも色濃く息づいている。

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物理学は恐るるに足らず。厳密な実験の先に待っている楽しみ アイキャッチ画像

「教養・共通科目」潜入レポート 自然科学科目群〈分野〉物理学

物理学は恐るるに足らず。
厳密な実験の先に待っている楽しみ

Roger Wendell准教授とAnthony Beaucamp講師のイラスト

Roger Wendell准教授
理学研究科 物理学第二教室 高エネルギー物理学研究室(左)

Anthony Beaucamp講師
工学研究科 マイクロエンジニアリング専攻マイクロシステム創成講座(右)

自然科学分野の研究に必須の実験技術と物理学の基本概念の習得が目的だが、実験手順の説明から質疑応答にいたるまで、教員も受講生も、原則として英語のみで会話するのがこの授業のルール。日本語版「物理学実験」の授業と内容は同じだが、プレゼンテーションの機会を設けているのが大きな特徴。1日めは地道な実験とデータ解析、2日めは報告と考察。2日にわたってひとつのテーマにじっくり向き合う。

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少人数授業で「ゼミ」スタイルの醍醐味を体験 アイキャッチ画像

「教養・共通科目」潜入レポート 少人数教育科目群

少人数授業で「ゼミ」スタイルの醍醐味を体験

Craig Barnett特定准教授のイラスト

Craig Barnett特定准教授
(理学研究科 生物科学専攻動物学系動物生態学研究室)

少人数で議論を深める「ポケット・ゼミ」の授業スタイルを踏襲し、開講数を大幅に増やして2016年度から新たに導入されたのが「ILASセミナー」。学生たちに提供するのは、「みずから問題を見つけだし、解決する」という、「主体的な学び」の場。高等学校までの「受け身の授業」スタイルに慣れている1回生には、挑発的な授業だといえるだろう。

個性あふれる京大生たちの好奇心と知識欲を埋もれさせないようにと、2017年度に教員たちが熱を込めて準備するのは305もの科目。学問分野、フィールド、授業スタイルは多岐にわたり、なかには講義やレポートをすべて「英語のみ」で貫く科目もある。多くても25名以内というクラス編成。教員や仲間たちと密度ある時間を共有し、ときには深遠なる学問の世界に怯えつつ、新たな一歩を踏み出してみよう

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学術世界に羽ばたくきみに、「英語力」という翼を アイキャッチ画像

「教養・共通科目」潜入レポート 外国語科目群(英語科目)

学術世界に羽ばたくきみに、「英語力」という翼を

金丸敏幸 准教授とJohn Rylander 特定講師の写真とイラスト

金丸敏幸 准教授 (左)
国際高等教育院附属国際学術言語教育センター

John Rylander 特定講師 (右)
国際高等教育院附属国際学術言語教育センター

京都大学の教養・共通教育の改革のもとで、とくに大きく変化したのは英語教育。高等学校での英語の授業と根本的にちがうのは、「英語を学ぶ」のではなく、「英語で学ぶ」ということ。大学での英語学習の魅力を体感してみた。

学術研究の世界では、日常的に英語があふれている。論文を読んだりレポートを書いたり、学会での研究発表や質疑応答も「英語のみで」と制約されることは少なくない。現代の学術研究は、国際的なつながりを断っては成りたたない。英語は世界とつながる重要なツールであることは確かだが、英語を話せるからといって優位であるとはかぎらない。肝心なのは「伝えたい」という熱意と内容だ。苦手だからと拒絶せず、思いきって飛び込んでみれば、活躍の場が新たに拡がるかもしれない。

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教養教育は、人生の果実を豊かに実らせるための「土づくり」です

村中孝史 教授/副学長〈共通教育担当〉/国際高等教育院長/法学研究科教授

村中孝史 教授の写真

京都大学が教養・共通教育の改革にのりだしたのは2013年。国際高等教育院(以下、教育院)を設立し、検討を重ね、長期的な戦略のもとに、2016年からカリキュラムが全面的に刷新された。改革の理念と目標を、国際高等教育院長の村中孝史教授にうかがった。

改革にあたり、もっとも議論が白熱したのは、「『教養・共通教育をとおして、なにを伝えるか』をしっかりと定めること」だったという。

改革にあたり、大きな三つの軸を据えた。「ひとつは、教養教育に重要なことはなにかを、徹底的に見なおすこと。各学部で学ぶ専門教育と、全学生を対象とする教養教育の意義を明確に分け、教養教育は、各学問分野の特徴や意義を伝えることを授業の芯にしました。もうひとつは、英語教育の大胆な改革。日本人が苦手とする『聞く・話す』機会を増やすことにしました。さいごのひとつは、これも英語に関わることですが、外国人教員による英語での講義科目を大幅に増やしたこと。自然科学から人文科学まで、多様な分野で約220科目を開講しました」。

目に見えない〈教養〉力が、知の土壌を豊かにする

基礎教育が専門教育を極める礎になることを疑う人はいないが、理系の学生たちに人文・社会学系科目の重要性を説くのは、なかなか骨が折れるのだという。「だれもが社会という枠のなかでくらしています。研究への理解を求め、協力者を募り、研究者として活躍したいなら、社会のしくみや歴史に無関心ではいられないはずです。身につけた〈教養〉の多寡やその質は、具体的な数字で示せるものではありませんが、教養教育で学んだ多様な価値観や複眼的な思考力は、人生に行きづまったとき、道を切り拓く方法のひとつを教えてくれるはずです」。

異質のものをとりこみ熟成させる力こそ、〈教養教育〉の真価

ほどほどに勉強し、友人とも戯れ、学生生活を謳歌したという村中教授。「模範的な学生とはいえませんが、議論好きの友人が多く、社会問題や講義での話題をタネに、学生なりに熱く語りあいました。いまでも彼らは、互いに意識しつつ、率直に議論しあえるよき仲間です。大学の魅力のひとつは、こうした仲間ができること。京都大学には日本各地はもとより、世界中から学生が集まります。興味や関心、人生経験、学生生活のすごし方も人それぞれですが、そういう人たちとの出会いこそが、人生をいちだんと豊かにする」。多様な学問の深遠なる世界をのぞく〈教養教育〉にも、共通することではないだろうか。しなやかな幹を育み、それぞれに花を咲かせ、豊かに実をつける。そのための土づくりが教養教育なのだ。

むらなか・たかし
京都大学大学院法学研究科民刑事法専攻博士課程を単位取得満期退学。京都大学法学部助手、同助教授をへて、法学研究科教授。2014年から国際高等教育院長、2016年から京都大学副学長(共通教育担当)を務める。

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