2017年春号
施設探訪
宇治川オープンラボラトリー
宇治川と東高瀬川の堤防に面した約6万m2の敷地を有する宇治川オープンラボラトリー(宇治川OL)は、水と土砂に関する災害のメカニズムの解明や防止・軽減を目的とした実験研究拠点。日本屈指の規模と機能を誇り、京都大学の研究者はもちろん、他大学や民間企業にもひろく開かれている。
今回は、日本各地にちらばる京都大学の教育研究施設を一般に公開する「京大ウィークス──公開ラボ『災害を起こす自然現象を体験する』」に参加して公開実験を体験しながら、災害研究の最前線をのぞいてきた。津波や台風、ゲリラ豪雨など、自然災害への防災意識が高まる昨今、ますます注目をあつめている宇治川OLにせまる
地震や火山噴火、水害など、世界各国とくらべて、多くの自然災害が頻発する日本。京都大学防災研究所は、あらゆる災害の被害軽減をめざし、防災に関する総合的、実践的な研究をすすめている。
宇治川OLは、防災研究所の「大気・水研究グループ」との連携が強い。宇治川OLの本館には、山から海までの流域に関する研究を施設内で完結できるよう、流域災害研究センターの3領域が研究室をかまえる。
1953年に防災研究所の実験施設として、「宇治川水理実験所」の名称で発足したのがはじまり。2002年に「宇治川オープンラボラトリー」と名称変更し、「水理」にとらわれない総合実験施設として再出発しました。
この施設は学部生や大学院生の教育、産学連携の関連機関、海外の研究者・企業などにひろく利用されています。アウトリーチ活動として、一般公開のほか、警察官、消防士などの日常的に防災関係の業務に携わる方たちを対象に災害体験を実施。2015年は約4,000人を受け入れました。
防災研究は、基礎研究による現象の解明はもちろん、現地や社会に実装され、災害を防いでなんぼの世界。そのためには、市民の方がたの協力・理解も重要。基礎研究、応用研究、アウトリーチ活動が三位一体となってこそ、防災研究といえるのです。
サイズが変わると起こる現象も変わりますから、実物と同じスケールでの実験が原則。とはいえ、予算やスペースにも限度があるので、再現性を損なわないていどに規模を調整して設置しています。年間数百万円かかる電気代や広いスペースが必要ですが、研究費や敷地面積の比較的大きな京都大学だからこそ実現できたといえるでしょう。施設への期待や担う役わりも大きいですから、きちんと研究で成果を出すことが使命。他大学や企業にもどんどん開放して、防災研究全体の発展にむすびつけたいですね。
川の流れが、河床の砂や河道の形成にどう影響するのかを実験する水路です。平らに砂を敷きつめた水路に水を流すと、砂もいっしょにコロコロと流れてゆきます。
砂が削れて、水深の深い場所ができてきました。
砂が削れた場所に水の流れが集まり、砂が削れていない場所は水が流れにくくなっていますね。さらに時間がたつと、もっと大きな変化がみられますよ。
水路にとりつけられている装置はなんですか。
水勢を弱めたり、流れの向きを制御する〈水制〉の模型です。学部生が卒業研究として取りくんでいる実験です。
模型は手づくりですか。よくみると、工具があちこちに転がっていますね。
かんたんな模型なら〈自作する〉のが私たちの基本方針です。
215mもの長さがあるのですね!
施設内で最大の水路です。とても大きいため、分割して使用することが多いですね。一部には淀川の模型を配置しています。
すごい水の勢い! みなさん手すりにつかまりながら、階段をのぼっています。
ゲリラ豪雨や台風が発生すると、地下空間に水が流れ込むことがあります。この実験では、地上で30cmの浸水がある状況を想定しています。現実の被災現場では、手すりがなかったり、荷物で手がふさがっていたりして、もっと危険な状況かもしれない。地下空間に潜む危険を知って、もしものときには迅速な避難を心がけてください。
強い雨で視界が真っ白です。傘をたたく雨音もうるさいほど……。
〈どしゃ降り〉とよばれる雨はおよそ30mm/h。それを大はばに上回る200mm/hの雨をきょうは体験してもらいました。たかが「雨」と思われるかもしれませんが、強い雨は想像以上におそろしいもの。いつもと違う雨を感じたら、情報確認を怠らないでください。装置では、最大300mm/hの雨粒を発生させることができます。
ドアのむこうの浸水が20cmあたりの段階までは子どもの力でも楽にクリアできていたのに、40cmを超えると、2人がかりで押してもびくともしません。
近ごろの建物は、すきま風や音漏れを防げるよう、ドアや窓の気密性が向上しています。しかし、とくに地下空間では、外の音が聞こえづらいゆえに外の状況が把握できず、緊急時の避難が遅れることがあるのです。
京都市の中心区域の1/100模型。鴨川の越水を想定した洪水・氾濫現象を実験できる。地下空間への流出口があり、地下に流れる水量の計測も可能。
気候変動の影響で雨量や雨の降る場所が変わり、これまで被害の少なかったアメリカやヨーロッパでも自然災害が頻発するようになりました。2012年にニューヨークを直撃したハリケーン・サンディでは、地下浸水が起こり、大騒ぎになったことも。日本では、1999年にJR博多駅の地下浸水を経験し、都市水害の研究がいちはやくはじまっていました。これまで海外では関心の薄かった日本の防災研究や技術の重要性が、近年、増しているのです。
第一波が防波堤にあたるときの大きな衝撃音に驚きました。第二波は、第一波よりも音は小さいですが、波は高くなっていました。
東日本大震災では第一波が50cm、第二波以降で10mを超える波が街を襲いました。津波はくり返し襲来し、第二波以降が最大高となることも多いです。警報が解除されるまでは気をゆるめず、避難をつづけてください。
この装置では、実際の1/50スケールで津波を発生させることができ、最大で高さ25m(装置では50cm)に相当する津波が再現できます。
第一波
第二波
ふだんの川や街のようすからは想像もつかないことが、緊急時には起こります。約30cmの道路冠水のなかをパトロールしていた警察官が、道路と側溝の境界がわからずに転落して流される事故がありました。危険と隣りあわせの場所がみぢかにあることを意識し、想像力を働かせて考えるきっかけにしてほしいです。
とくに消防士や警察官たちは、救助や支援に参加するさいに自分の身は自分で守らなければなりません。水のおそろしさを知っていれば、二次災害のリスクは抑えられるはず。かれらの安全は市民の安全にもつながりますから、積極的に災害体験を受け入れています。
大阪湾内の潮の流れについての検証に使用される。沿岸地形は変更可能で、6,000年前から、現代、将来までの6つの時代を再現できる。
かつて、宇治川、木津川、桂川の合流地点に存在した巨椋池。およそ75年まえの干拓事業で農地となり、その姿を消した。河川の増水時に氾濫する水を受けとめる遊水地としての役わりも担っていた巨椋池を後世に伝えたいと、宇治川OLの中庭に1/200サイズの巨椋池を復元。
学生や市民の防災教育に活用したいと、発案しました。川や山、干拓後に造られた天ケ瀬ダムなども再現して、現代に巨椋池があった場合の水の流れをシミュレートできます。洪水や治水のしくみを理解してもらう材料になれば。
直径約15mの池には、京都で唯一巨椋池にだけ存在していた天然記念物のムジナモが育っています。メダカを狙うカワセミやアオサギなどの鳥類、アサギマダラというめずらしい蝶などもやってきて、ゆたかな生態系が形成されています。
河川での土石流の流れを再現できる。砂防ダムの構造や設置位置、勾配などの条件を変更できる。
ミニチュアのジオラマ模型で、洪水時の街のようすをシミュレートします。
川の近くに野球場がありますね。
洪水で川があふれたときに、グラウンドや公園は遊水地としてつかわれるところもあります。
体験学習や実験などをとおして、視覚的・感覚的に水害のおそろしさを学習できる。2016年度は約270名が参加。
>> 京都大学防災研究所