2017年春号
この編集後記をドイツ、ハンブルクの研究所の一室で書いている。その地下にある巨大な加速器は、極微の世界を探る究極の顕微鏡だ。われわれの自然への想像の地平を拡げる世界的努力の一翼を担う。われわれはさまざまな現象を理解するにあたって物理的な手法に慣れ親しんできた。一方で、時としてそのあまりの成功のために、数かずの経験と長い努力で磨かれてきた理解を通じて、はじめて可能になるわれわれが意識できる像、つまりわれわれが見ていると思っているものが近似的なものであることを忘れてしまいがちだ。われわれが日常的に出会う現象ですら、つねにわれわれの理解より少しだけ知らないことを含んで完備している。そういったことを『紅萠』の編集を通じて思いだす。われわれの意識のその縁に新たなセンスを生み出す種が潜んでいるんだなあということを。
広報委員会『紅萠』編集専門部会