2016年秋号
京都大学をささえる人びと
田上 款さん
学術研究支援室 宇治地区担当チーム
リサーチ・アドミニストレーター
佐伯かおるさん
防災研究所 広報出版企画室マネージャー
米国科学振興協会が開催するAAAS年次総会。ワシントンD.C.を舞台に、5日間、さまざまな催しが実施される。高い注目度を誇るのが、各国の大学や研究機関が最新の成果を発表する公募制のシンポジウム。いちども日本からの採択はなかったが、182回めとなる2016年、京都大学の「地震防災シンポジウム」がその座を射とめた。成功に導いた裏方たちの思いに迫る
京都大学といえど、ひとたび海外に出れば、まだまだ知られていないのが現状。海外からの留学生や研究者の獲得競争が激化するなか、研究成果の世界発信は重要だ。
AAAS年次総会には、約50か国から研究者やマスコミ関係者、近隣地域の家族づれや中高生まで、一万人以上が集う。150件のシンポジウムに採択されるには、人びとの関心を集めるテーマ設定も重要だが、核になるのは、やはり科学的な成果の新規性とその影響力。
URAとして京都大学の研究活動の支援にあたる田上款さんは、2年前のシンポジウムの応募段階からテーマ設定や運営方法の議論に加わった一人。「京大が最先端を走る『地震研究』をテーマにしてはと、防災研究所の先生を推薦したことがきっかけです」。
巨大地震発生域の近傍で観測例の多い「スロースリップ」現象を研究する伊藤喜宏准教授と、「緊急地震速報」研究の第一人者である山田真澄助教の2名を推薦。「研究支援をとおして、先生の人となりや研究内容をよく知っていました。このお二人なら一般の人たちの関心をひきつけられるはずだと」。教員からAAAS申請の同意を得たあと、山田助教の紹介で、スマートフォン・アプリ「MyShake」を開発し、アメリカで緊急地震速報の整備をすすめるリチャード・アレン教授(カリフォルニア大学バークレー校)にも協力を依頼。アメリカでの取りくみを盛りこんで肉づけした内容は、審査員の高評価を得て採択が決まった。
申請前から熱い議論がつづいたのは、「予知」ということばの扱い方。「『予知』は一般の人にはわかりやすいことばですが、研究者にとって安易につかえることばではありません。まずは防災のしくみを整えるべきだという意見も根強い。一般のみなさんの関心と、研究者が認識する現状や事実との乖離を埋めることがむずかしかった」。議論の末に掲げたテーマは「Living with Earthquakes」。「地震とともに生きる地域と人びとにむけた取りくみを紹介することに焦点をあてました」。
佐伯かおるさんは、防災研究所の広報担当として総会に参加。「総会はあらゆる分野の科学者やメディア、科学ファン、家族づれ、スポンサー企業など、さまざまな立場の人が集い、交流する場でした。どんな立場の来場者もひきつけられる展示やイベントのつくり方など、私たちの広報業務に取り入れられそうな具体的なヒントもいくつか得てきました」。
かつては研究者として、いまはURAとして、「学術の発展に貢献をしたい」という思いに燃える田上さん。「学術の現場を知っていて、研究にかける先生がたの思いも共有できる。それを強みにみなさんを後押ししたい」。
「研究者が研究・教育に専念できる環境をつくりたい」と佐伯さんも深くうなずく。「大学教員はとても多忙です。広報などの他業務は、専門的なスキルをもつ職員がサポートするしくみをいっそう整備してゆくことが必要です」。
日ごろはべつの場所で働く二人だが、「学術の発展」をめざす夢は共通。ひとたび集えば、京大をけん引する強力な両輪となり走り出す。
たのうえ・かん
1977年に旭川市に生まれる。北海道大学大学院理学研究科化学専攻で学位取得。米国国立衛生研究所客員研究員をへて、2013年から現職。
さえき・かおる
1973年に札幌市に生まれる。京都大学文学部卒業後、京都大学学術出版会編集室、東京大学大気海洋研究所広報室などをへて、2014年から現職。