2016年春号
施設探訪
1. 屋外放飼場(ほうしじょう)
2. 展示資料室
3. 図書室
4. ニホンザル放飼場
5. 骨格資料室
6. リサーチ・リソース・ステーション(RRS)
世界に生息する霊長類は約350種。先進国で唯一、ヒト以外の霊長類が野生で生息する日本では、世界に先がけて霊長類学が発展した。その流れを受けて、霊長類に関する総合的研究を目的に京都大学に霊長類研究所(霊長研)を附置・設立。「サルからヒトを知る」をテーマに、1967年の設立から約50年、多くの研究者たちが多様な研究成果をあげてきた。
愛知県犬山市の北東に位置する霊長研には1,200頭もの霊長類が暮らす。飼育環境や研究所の運営には、「より野生にちかい姿で暮らしてほしい」という思いが反映されている。にぎやかな鳴き声が聞こえるなか、大学院生時代をふくめて約10年にわたり霊長研ですごしてきた西村剛准教授と友永雅己准教授の案内で所内を探索した
それぞれ1個体のオスを中心とする、2つのサブグループ(計13個体)のチンパンジーが、離合集散しながら暮らす。「よりチンパンジーらしく暮らせるように」と、1998年には高さ15mのトリプルタワーを設置。2012年には、高さ16mの大型ケージも完成。タワー形式の放飼場は日本初の試みで、これを参考にほかの動物園でもタワー状の放飼場が導入された
*京都大学ライブカメラでは、運がよければ、屋外放飼場ですごすチンパンジーの姿が見られます。
※カメラ老朽化のため、このサービスは現在行われておりません
野生のチンパンジーは果実をふくめさまざまなものを食べる。研究所でも果物だけでなく、キャベツやニンジンなどの野菜を数多く食事に取り入れている。霊長研の人類進化モデル研究センターの技術職員が一元管理するが、研究者も積極的に給餌に参加し、チンパンジーとの関係を深める
京大野生動物研究センター附属の熊本サンクチュアリには、57個体のチンパンジーが暮らす。「日本にいる320個体の2割強にあたる70個体が京大で暮らしています。日本のチンパンジーの将来を牽引する、そんな心意気で研究しています」
名前は、家系ごとにイニシャルがそろうようにつけられる。「チンパンジーは女性個体が出自の群れから出てゆく父系社会ですが、産まれた子の父親がだれなのかは判別しづらい。だから名前は母からとっています」
霊長類研究の資料や化石・骨格模型などを展示。研究所設立に尽力された伊谷純一郎先生が撮影した貴重な写真やフィールドノートなどをとおして、日本の霊長類研究の歴史をふり返ることができる
約9,000点の霊長類の骨格標本と、タヌキやクマなどの約1,900点の獣骨標本を保管。4,000点におよぶニホンザルの標本は世界一の規模。「骨を見るだけで、病気や食事内容までわかるし、犬歯の大きさから群れの構成も推測できます。ニホンザルのオスの犬歯は立派で、メスは小さめ。このタイプは、複数の雌雄がともに暮らす社会。ヒヒの犬歯は雌雄差が大きいので、オスどうしの競争がはげしく、オスが複数のメスを囲う社会です。見慣れないと、骨から情報は読みとれませんから、資料をたくさん揃えることが重要。個体差まで理解するには、かんたんに『わかった気』にならないこと」
本館から北東に約1kmの場所に、ニホンザルの飼育と繁殖にとりくむ「リサーチ・リソース・ステーション(RRS)」が2007年に完成。里山の林を柵で囲った10haの敷地に、放飼場や育成舎が設けられ、大小の群れに分かれた計285頭が暮らす。放飼場は6面に分割され、群れごとに2面が割り当てられる。1面の使用中、もう1面は休ませて緑を回復させるしくみ。排水貯留槽も設置され、場外に排水が漏れないようにようにくふうされている
「これは、生きた霊長類をCTやMRIで撮影し、三次元的に再現した画像です。技術の進歩で、生体のまま内部を分析できるようになり、貴重な標本を傷つける必要がありません」。西村准教授がクリックするたびに、PC画面のチンパンジーの手の画像から、まずは皮が剥がれ、筋肉が露出し、やがて骨だけに。「関節のような複雑な部位も、筋肉や骨との関係など、三次元でくわしく見られるので、標本だけではわからなかったチンパンジーの体のしくみがよくわかります」
毎夏、一般の方を対象に公開講座を実施しています。地元の方がたを対象とした市民公開(秋)や大学院志望者を対象としたオープンキャンパスも実施。小中高校や教育機関からの見学も受け入れています。
*RRS 霊長研リサーチ・リソース・ステーション
>> 京都大学 霊長類研究所