京大惑星の地下には、発明者たちの夢見る未来世界が秘密裏に存在します。
さぁ、タイムマシーンに乗って、発明品の時空を探検しよう。
※本コンテンツは取材当時の情報に基づいた内容となっております。
また未来に関する内容は、あくまで予想であり、事実と異なる可能性
“見えないロボット”が活躍する社会 災害救助ロボットをはじめ、あらゆるロボットが“当たり前”となった。それどころか、掃除ロボットはわざわざ姿を現さずとも朝起きた時には部屋をきれいに片付け終えているし、部屋の模様替えロボットはまるでチェスの駒を動かすように簡単に家具を動かしてくれる。誰もロボットという存在を意識しないくらいロボットが生活に溶け込んだ世の中、そう“見えないロボット”が活躍する社会になったのだ。
人間とロボットの 関係は?ついに宇宙太陽発電所が稼働!ロボット技術を使った国際救助隊が結成された。普段は工場や家庭の“お役立ちロボット”としてそれぞれ活動しながら、いざ災害となれば、様々な能力を持つレスキューロボットとして世界中から出動。現場で復旧作業や人命救助、情報収集にあたる。彼らのおかげで、災害の被害が最小限に抑えられ、二次災害も減少。子供達の間からは、「将来の夢はロボットレスキュー隊のエンジニア!」という声も多く聞かれるようになった。
エネルギー源が問題ヘビ型のメンテナンスロボットが実用化 日ごろから使っていないと、いざ災害時に役に立つかわからない。そこで、レスキューロボットの平時への応用が進められた。いち早く実用化されたのが「ヘビ型ロボット」。倒壊した建物内部など、狭くて曲がりくねった場所にも入っていける特性を活かし、パイプの中を点検したり、ダクトの中のゴミを取ったりという、“メンテナンスロボット”として、工場などで活躍するようになったのだ。
なんと“海ヘビ型” ロボットまで!どんな悪路でも前に進める究極のレスキューロボット『FUHGA』誕生!本体の大きな「クローラー」で凸凹のある道もなんのその。大きな障害物も前方についた「フリッパー」で乗り越えることができる。上部に付いた大きなアームで本体を支えるようにして渡れば、川のような大きな溝もへっちゃらだ。クローラーとフリッパーは『KOHGA2・3』、力強いアームは『FUMA』、それぞれの長所を併せて、走破性を極めたレスキューロボットだ。
発見のターニングポイント 発見の鍵自分で考えて動く『自律型』ロボットを開発 人間の操作に頼ることなく、自ら状況を検知し、自動走行しながら、災害地の地図を作ったり、被災者を探索したりするロボット。その名は『KAMUI』。2011年には実用版として『MATOI』というロボットも登場。実際の発電所敷地内で放射線の線量を自律走行しながら計測することに成功した。
“群れのロボット”が最強?ヘビ型と並行して車輪型ロボット『FUMA』も開発 ヘビ型は凹凸の走行時には優れた能力を発揮するが、平地だとかえって移動速度が遅くなってしまう。平地を移動するにはやはり車輪が効率的。そこで、4つの大きな車輪にアームをつけたロボット『FUMA』を開発。アームに俯瞰カメラを搭載することで、より客観的な視点で操作できるようになった。
ロボット自身を 俯瞰で見る?記念すべき第1号・ヘビ型ロボット『KOHGA』完成!最初に作った本格的なレスキューロボットは「ヘビ型ロボット」だ。車輪型ロボットだと、車輪の半径より大きい段差は乗り越えられない。しかし車輪型ロボットを数珠つなぎに長くつなぎ、さらに関節もつければ、ヘビの鎌首のようにクッと持ち上げることで、高い段差もす〜いすい。また、狭い隙間もクネクネと進んで行けるから、非常に便利である。この『KOHGA』に改良を加える形で、2005年にはフリッパー(本体を持ち上げる腕)を搭載した『KOHGA2』、2007年にはアームを取り付けた『KOHGA3』が登場した。
レスキューロボット リーグに初参加し、 課題が浮き彫りに震災での“無力感”がきっかけ きっかけは阪神淡路大震災。指導していた学生が木造アパートの下敷きになって亡くなってしまった。災害現場では、ロボット研究者としても人間としても何一つできなかった。この無力感が、災害救助に役立つロボットを作ろうという動機づけになった。
災害現場に 必要なロボットとは?災害救助ロボットの生みの親 松野文俊先生に聞く 松野文俊(工学博士) 京都大学大学院 工学研究科 教授 プロフィール 1986年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了後に同大学助手、1992年神戸大学工学部講師、助教授、1996年東京工業大学大学院総合理工学研究科助教授、2003年電気通信大学知能機械工学科専攻教授を経て、2009年より現職。趣味は「昔はランニング、今は愛犬の散歩、頭を空にしてボッケーと考えること」。
■研究の魅力とは? 「独自の理論に基づいてシステムを制御し、ロボットが自分の思い通りに動いたときは感動しますし、やっていてよかったなと思います。また、レスキューロボットは極限環境で人を助けるということを目的にしたロボット技術ですが、それを基礎技術として、ゆくゆくは皆さんの生活を楽に快適にするようなロボットを作れたらいいなとも思います。そのように、努力次第では世の中の役に立つということも、この研究の魅力の一つですね」
■先生のようになるためには? 「僕みたいになりたいかどうかはわかりませんが、とにかく諦めないこと。人間の能力はそんなに変わらないので、どれだけしがみつけるか、諦めないかだと思います。何か“こうなりたい!”というものがあるのなら、そのモチベーションを持ち続けること。そうすると、いつの間にか“それ”になっていますから。とにかく諦めないことが肝心です」
■発明のために一番大事なことは? 「『ニーズをつかむ』ことは大事。自分のやっていることが世間にどう役立つかを考えないと、結局無駄骨ということになりかねません。まずは『疑問をもつ』こと。どんなことでも、なぜ?どうして?それ本当?と疑問をもつことが重要ですね。あと、『遊び心』も大事だと思います。我々がロボットの競技会に出ているのも、勝ち負けがつくと皆一生懸命やるから。そういうモチベーションづくりも大切だと思いますね。そして『失敗を重ねる』ことです。私だってもう……ガラクタの山です(笑)。高い山に登るにも、いろいろ失敗しないとベストな登り方は見つからない。失敗から学ぶことはたくさんあります。最近の学生は失敗したがりませんが、失敗しないと良いものは作れないと思いますね」
■京都大学で研究する魅力 「京大は自由な学風と言われますが、自由とは何なのでしょうか?私は“発想の自由”だと思います。例えば定説があり、みんながその定説を信じているとする。だけども自分はそれが疑わしくてしょうがない。他の人は、えっ疑うの?と驚くけれど、疑ってなにが悪い?──というのが発想の自由です。京大には、霊長類学研究所という研究所があるのですが、日本では京大だけにしかないんです。「サルからヒトを知る」とかいって、サルの行動なんて研究してどうするの?と最初は言われていましたが、今ではこの分野では世界をリードするくらいになっています。他にも興味のあることや面白いと思えることがあれば、根本のところまで立ち返ってみて、それ本当?と疑ってみる。そういう発想の自由が許されるところが京大の魅力だと思います」
■これからチャレンジしたい研究 「生物が持っている色々な運動や知能をもっと深く知りたいですね。例えば飛ぶヘビ。くるくる回りながら──落下しているんじゃなくて──ちゃんと滑空しているんです。普通のヘビとは体の作りもよく似ているのに、なぜ飛ぶことができるのか?あるいは、なぜ小さなアリが巨大な蟻塚を構築できるのか?そんなたくさんの生物の不思議を解明してみたいですねぇ」
最初はどんなロボットを作ればいいのかわからなかったが、防災の専門家に「災害現場を知っているのか?」と言われたことが道を切り拓いた。阪神淡路大震災を目の当たりにしたが、確かに現場を知らなければ本当に役に立つものを作ることはできない。それ以降、研究チームは災害が起きるたびに現場に駆けつけデータを収集。レスキューロボットの研究に活かしてきた。
一つのロボットを完成させるために、何体の失敗作を生み出してきたか……。しかし、失敗は成功への一歩。失敗すればするほど、どんどん成功に近づくと信じて頑張った。失敗から学ぶことはたくさんある。
用途ごとに色々な方法論を試すなど、一つの考えにこだわらない思考の柔軟性が大事。凝り固まった考え方では、道を切り拓けない。壁に対しては柔軟に対応しないと乗り越えることはできない。
自然淘汰で残ってきた生き物にはそれぞれ良いところがあり、松野研で開発されたレスキューロボットは生物からヒントを得ているものが多い。ただし真似るだけではだめ。例えばヘビ型ロボットは、原理こそヘビを参考にしているが、動き方などは独自のメカニズムを用いている。“生物を超えたい”という思いが開発のエンジンとなっているのだ。
肉眼で見えない場所でも、どうすれば自分の思うとおりにロボットを操作できるか?過酷な環境でも通信を途切れさせないためにはどうすればいいか?レスキューロボットに求められる条件はロボットの知識だけではない。通信や情報のプログラムを開発するチームや、ロボットの五感となるセンサーやVR技術を開発するチーム等、それぞれが協力しあい、プロジェクトを進めてきたことが、究極のロボットの完成につながった。
自律するだけでなく、ロボット同士が連携して動くことが想定されている。例えば、情報網を自分たちで作っていくロボット。これは、無線の弱いエリアを探して基地局を置いていく大きなロボットと、その基地局の周りで作業する小さなロボットの連携プレーによって成り立っている。また、大きな物体をたくさんの小さなロボットで運搬する仕組み。 これは、昆虫のアリをお手本にしている。1匹1匹は大した能力ではないが、集団で行動すると大きな力を発揮したり、そうかと思うとバラバラになって小さな隙間に入っていったり、ある時は自分が犠牲になってほかのアリや自身の集団を助けたりする。こうした“群れロボット”こそが、運用面でも効果の面でも「実は最強だ」という声が研究チームからはあがっている。