京大の発明

京大惑星の地下には、発明者たちの夢見る未来世界が秘密裏に存在します。
さぁ、タイムマシーンに乗って、発明品の時空を探検しよう。

※本コンテンツは取材当時の情報に基づいた内容となっております。
また未来に関する内容は、あくまで予想であり、事実と異なる可能性

20XX

いざ、宇宙へ!人類の地球外移住が本格化 増え続ける人口、止まらない自然破壊……21世紀後半、地球は危機的な状況に陥り、地球外への移住が計画された。そしてついに、地球の周りに大規模な宇宙ステーションが建設され、“宇宙移民”が続々と地球外に移り住み始めた。火星を地球そっくりに作り変えて移り住む“テラ・フォーミング”も、数年後にはスタートする。こうした、宇宙移住の実現のためには、宇宙に巨大な建造物を作る技術が必要だが、そのベースになっているのは、数十年前に実用化された「宇宙太陽発電所」の建設技術であった……。

2045

ついに宇宙太陽発電所が稼働! 太陽光発電装置の小型化、ロケットの輸送能力向上など、様々な壁がクリアされ、ついに宇宙太陽発電所=SPS(Solar Power Satellite)が完成。地球上空36,000kmの静止衛星軌道に、約4平方kmの巨大な太陽電池パネルが“花ひらいた”。曇りや雨でも発電可能。地上は夜でも衛星軌道上は地球の影に隠れないため、24時間365日発電可能だ。それをマイクロ波 (電波の一種で、レーダーや電話、テレビ、電子レンジなどに用いられる)で地上へ送り、得られる電力は約1GW(100万kW)。これは原発1基分に相当する!

21世紀後半の エネルギーの主役に!
2030

一足先に『ワイヤレス給電』が普及! 宇宙太陽発電が“大きさ”や“重さ”など“物理的な問題”で少し足踏みしている間に、マイクロ波送電技術を応用した「ワイヤレス給電」が一般に普及した。例えば携帯電話やパソコンは、通話やインターネットをしながら充電。家電製品は全てコードレスになった。おかげで家の中はスッキリ!バッテリー切れで“メールができない!”なんてことも無くなった!

他にもあるぞ!ワイヤレス給電
2016

宇宙太陽発電の“心臓部”がほぼ完成! 宇宙太陽発電所は、人工衛星の太陽光パネルで集めた電気エネルギーをマイクロ波に変え、それを地球上に送り、再び電気エネルギーに変換するシステム。その心臓部である、“送受信システム”は、アンテナ制御の高性能半導体の進歩などにより、ほぼ完成した。実用化は目の前!

越えなければいけない壁
2009

30m上空から地上の携帯電話を充電! 2000年には電気自動車の無線充電実験、2001年には太陽光発電とマイクロ波送電装置を備えた宇宙太陽発電所の小型モデルをJAXAなどと共同開発、そして2009年には飛行船を使って、上空30mから地上の携帯電話に送電する実験を行った。宇宙太陽発電所実現への一歩を進めるとともに、災害などで停電した地域にマイクロ波を送って、携帯電話などを充電することも可能に!

JAXAとは?
2000

成功の鍵は“電子レンジ”!? マイクロ波を発生させるシステムには、電子レンジにも使われている「マグネトロン」が主に使われる。半導体を利用する手もあるが、マグネトロンの方が効率よく、高出力でコストも安い。ただし、マイクロ波の“波”にムラが出るので、それを調整するのが大変だが、マグネトロンで安定的にマイクロ波を送ることに成功した!

マグネトロンとは?
1992

マイクロ波送電で模型飛行機を飛ばせ! 宇宙太陽光発電の実現に向けて、具体的な実験が進んでいった。まずはこの年、マイクロ波で電気を送り、その電力で模型飛行機を飛ばす実験に、世界で2例目として成功。さらに、翌年の1993年には電離層プラズマ(地球の大気圏にあり、電波を跳ね返したり乱したりする作用がある)でマイクロ波送電を行う2回目の実験に成功した!(世界初の1回目も京大、1983年)

発見のターニングポイント マイクロ波とは?
1990

人類をあと1万年生き延びさせるには宇宙の力が必要だ! これは、当時の宇宙太陽発電所研究のリーダーで、後に京都大学総長となる宇宙科学者・松本紘先生の言葉。地球のエネルギー資源が減り続けて無くなってしまうことを心配したからだ。そのためには、宇宙から太陽エネルギーを地球に送らなければならない。鍵を握るのは「マイクロ波」。その技術を極める必要がある──白羽の矢が立ったのが、当時、京都大学の4回生だった、ある若い学生……。これが、その後脈々と続く日本の宇宙太陽発電所の研究の礎となった。「人類をあと1万年生き延びさせたい!」。この思いが、学者から学者へ“魂のバトン”のように、受け継がれているのだ。

宇宙太陽発電所(SPS)とは?

宇宙太陽発電の育ての親 篠原真毅先生に聞く 篠原真毅(工学博士)京都大学生存圏研究所 生存圏電波応用分野 教授 プロフィール 1991年京都大学工学部電子工学科卒業。1996年工学博士取得。2001年京都大学宙空電波科学研究センター助教授。2007年宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部宇宙探査工学研究系 客員准教授を経て、2010年4月より現職。趣味は「映画鑑賞」。

■研究の魅力とは? 「世の中に普通にある技術をもとに、全く新しい発明を生み出せること。実は、宇宙太陽発電に用いる“ワイヤレス給電”技術は、皆さんのまわりの携帯電話やテレビのアンテナ技術と、そう大差ないんです。でも、やり方次第で、ものすごく革新的なことができる。ワイヤレス給電は、ビジネスの市場としても有望視されているので、産み出された商品やサービスによって、世の中がどんな風に変わっていくか見るのも楽しみですね。もちろん、宇宙太陽発電所を稼働させるのが、最終的な目標です」

■先生のようになるためには? 「インターネットが普及して、どんな情報でもすぐに得られる今、たくさん勉強して、多くの知識を得るだけでは、もはや意味はありません。それよりも、研究に対する「情熱」と「興味」を、いかにキープし続けられるか?情熱と興味があれば、どんな困難でも乗り越えられます。そうした気持ちを維持し続けることは大変ですが、私の場合は、なにくそ!という反骨心が原動力になっていると思います。負けず嫌いなんですね」

■発明のために一番大事なことは? 「工学部の研究、特に電波の研究では、様々な方程式を使います。もちろん、その方程式自体は正しいとした上で研究を進めるのですが、アプローチを変えるとか、視点を少し変えるとかすると、“新しい発見”が得られやすい。当たり前を、当たり前と思わず、違った見方をする姿勢が大事ですね。あと、“自分を信じる”こと。ライト兄弟も、本当に飛ぶまでは、周りからほとんど“飛べる”なんて信じられていなかったと思う。私も、タイムマシンのような実現不可能なものを作ろうというのではないのだから、できないわけがない!想像できるものは“創造”もできるんだ!そう自分に言い聞かせながら、日々研究に励んでいます」

■京都大学で研究する魅力 「多種多様な人材がいること。特に「生存圏研究所」は人材の宝庫です。だって、木材の研究をしている先生と、電波の研究をしている先生が、立ち話で盛り上がるなんて環境、他の大学にはなかなかありませんから。学部を横断して宇宙を幅広く研究する「宇宙ユニット」というのも京大にはありますが、あそこも面白いですね。メンバーに哲学者も入ってるんですよ。ホント意味わかりませんけど(笑)、そういう色んな分野を混ぜ合わせて、研究させてしまう京大は、やはりすごいですね」

■これからチャレンジしたい研究 「もちろん、宇宙太陽発電所の稼働が最終目標なんですが、実現可能性ということでいえば、“ワイヤレス給電技術の実用化”ですね。いま、“置くだけ充電器”って市販されているじゃないですか。あれの充電可能距離を、10mまで離せればいいんです。技術的にはすでに可能なんですが、電波法などの問題で、そう簡単な話ではない。でも、近い将来、必ず実現させたいですね。携帯電話をポケットに入れておくだけで勝手に充電してくれる。“置く”手間も省けるわけで、こんな便利なことってないですよ」