京大惑星の地下には、発明者たちの夢見る未来世界が秘密裏に存在します。
さぁ、タイムマシーンに乗って、発明品の時空を探検しよう。
※本コンテンツは取材当時の情報に基づいた内容となっております。
また未来に関する内容は、あくまで予想であり、事実と異なる可能性
スイッチポン!で すぐ輸血 輸血用の血液製剤が100%人工的に作られる時代に。病院には「輸血ボックス」というものがあり、スイッチを押せば、すぐ必要な量の血液が用意される。おかげで、誰もが、血液不足を気にせず、また感染症などの心配もなく、安全に手術を受けられるようになった!
輸血するだけで様々な病気が治る?人工血小板が ついに実用化! 輸血用血液製剤のうち「血小板製剤」の人工的な製造がついに実用化!懸念されていた製造コストの問題がクリアされたからだ。これで、今までドナーが見つかりにくかった特殊な血小板型も安定供給が可能に。また、結果的に、献血に頼っていた時より安く作れるようになったので、医療費削減にもつながった!
輸血用血液製剤とは?必要な量の『血小板』を25日以内で作れるように!ストックした巨核球から、より効率的に血小板を取り出すため、「バイオリアクター」という装置を開発。これにより、輸血に必要な1,000億個の血小板を、25日以内に製造できるようになった!
バイオリアクターとは? 発見のターニングポイント血小板の元となる『巨核球』を増やせ!iPS細胞からそのまま血小板を作る方法では、輸血に必要な量の100分の1しか作ることができない。また、血小板は常温保存で4日しかもたず、冷凍すると止血作用など大切な機能が壊れてしまう。そこで、血小板の前段階である「巨核球」という細胞を、遺伝子操作することでたくさん増やし、冷凍保存しておく方法を考え出した。それを使って、いつでも必要な時に、必要な量の血小板を作ろうというのだ!
巨核球とは? 輸血に必要な血小板は○○億個!?iPS細胞から血小板を作り出すことに成功!iPS細胞は万能であるため、心臓になったり、肝臓になったりもする。そしてさらに、確実に血液細胞に成長させる遺伝子を発見。それを働かせることで、皮膚細胞由来のiPS細胞から、血小板を作ることに成功した!
iPS細胞とは? 遺伝子を“働かせる”とは?血液が足りなくなる!? 少子化などの影響で、献血というシステムが成り立たなくなる恐れが出てきた。2027年頃には、日本で必要な輸血製剤の20%が不足し、のべ100万人分が足りなくなる可能性があることが、調査によってわかったのだ。そんなとき、「ES細胞」という様々な細胞に変化する万能細胞を使った研究が注目されていた(iPS細胞は2年後の2006年に発見)。これを使えば、人工的に血液を作ることが可能かもしれない。その第一歩として、まずは「血小板」をつくるための研究がスタートした。
血小板とは?人工血小板の生みの親 江藤浩之先生に聞く 江藤浩之(M.D., Ph.D)京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究部門 教授 プロフィール 1990年山梨医科大学医学部(現山梨大学医学部)医学科卒業。 1999年米国Scripps研究所に博士留学。 2003年東京大学医科学研究所幹細胞治療分野研究 助教、2009年同研究所幹細胞治療研究センターステムセルバンク特任准教授を経て、2011年7月より現職。趣味は「野外での料理・温泉・チェロ演奏」。
■研究の魅力とは? 「私がなぜこの研究をやっているかというと、現在の“献血”というシステムが、将来的には成り立たないと考えているからです。今でも輸血用の血液は不足していて、少子化などの影響で、10年後には必要量の2割も足りなくなると言われています。輸血は手術の時などに欠かせないものです。しかし、その全てを人の手で大量に作ることは、今のところできません。つまり、人の命は、そのほか大勢の人の“善意”に頼るほかないのです。もし、輸血用の血液の一つである血小板を、安全かつ大量に、そして低コストで作ることができれば、今の状況を改善できます。そして将来的に全ての輸血用血液を作ることができれば、誰でも安心して手術を受けることができ、結果として多くの命が助かるというところに、非常にやりがいを感じます」
■先生のようになるためには? 「ずっと劣等生だったので、私のようになるのはどうかと思いますが(笑)……。でも、劣等生だからこそ、解らないことがあれば、解るまで掘り下げて考えようとしたのは良かったと思います。その結果、物事をより深く理解することができました。あと、“自分のことを好きになる”ということですね。自分のことが好きになれば、勉強も好きになるし、好きになれば楽しくなって、成績も伸びるはずです。まずは、自分のことを好きになる、認めてあげるということが大事だと思います」
■京都大学で研究する魅力 「私が所属するCiRA(京都大学iPS細胞研究所)の山中伸弥教授ほか、日本の社会の常識からかけ離れたものすごい才能の持ち主たちに出会えることですね。“え、こんなこと考えてるの!?”と、大いに刺激されます。また、若くて優秀な研究員が多いということも魅力です。今回のプロジェクトも、20〜30代の若い研究員20人くらいで構成されていますが、彼らの献身的な努力が無ければ決して成功しませんでした。そういう若者の存在は、研究にとって “必要十分条件”だと思います」
■発明のために一番大事なことは? 「他人の評価を気にしすぎないことでしょうね。私も最初は“血小板なんか作れるわけがない”と多くの先生方や友人から言われました。しかし、それにめげずに、自分の考えを貫き通しました。他人の評価を気にしすぎると、本当はやりたいのに、“間違っているかも?”と諦めてしまうかもしれませんからね。あと、ノーベル賞の大隅先生※もおっしゃってましたが、“他の人とは違うことをやる”ということです。他の人と同じことをしていたのでは、決して新しいアイデアは浮かびません。そもそも競争相手も多いから大変です。私は、血液の研究ではマイナーな存在だった血小板に目をつけたので、結果的に大きな発見につながりました」 ※東京工業大学栄誉教授の大隅良典先生。細胞が不要になったたんぱく質などを分解する「オートファジー」と呼ばれる仕組みを解明したことで、2016年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
■これからチャレンジしたい研究 「巨核球の謎を解くこと。この細胞、核分裂はするんですが、細胞分裂はしないというユニークな特徴があります。そのため、大型で核を多く持つ細胞になるんですが、最後は細胞そのものがバラバラにちぎれて、血液の中に飛び出していってしまうんです。面白いでしょ?なぜ、こうなるのか、いまだわかっていません。研究すればするほど謎は深まる一方。なので、しばらくは“こいつ”と付き合っていこうと思っています。あとは、「人工骨髄」の実現です。骨髄は骨の中心部にある造血組織で、白血球、赤血球、血小板などの血液を作る“血液工場”です。もし、骨髄を人工的に作ることができれば、献血と同じくドナーに頼っている移植が楽になります。また、若返り遺伝子など様々な研究につながります。ただ、実現は相当難しいでしょうね。血小板を作るだけでも大変なのですから。でも、血小板も最初は不可能だと言われていました。だから、私は決して諦めません」
人工的に血小板を作るには、大きくは二つの過程がある。一つ目は「巨核球を増やす」こと、二つ目は「巨核球から血小板を取り出す」こと。それぞれの過程で効率化すると、Wの効果で全体の効率が飛躍的に上がる! 一つの効率化で満足せず、二つの過程で効率化を図ったことが、大きな進歩につながった。
血小板のもととなる「巨核球を増やす」こと。実は、これはワクチンを作るために一般的に用いられている方法。例えばインフルエンザウイルスワクチンも鶏卵を使って増殖させている。着目したのは、これが最も確実で、全体の研究を着実に一歩前に進めるエンジンになると判断したから。あえてオーソドックスな技術を用いることも重要なのだ。
何より諦めない心が大切。諦めずに考え続ければ、思わぬところにヒントが見つかる。