京大の発明

京大惑星の地下には、発明者たちの夢見る未来世界が秘密裏に存在します。
さぁ、タイムマシーンに乗って、発明品の時空を探検しよう。

※本コンテンツは取材当時の情報に基づいた内容となっております。
また未来に関する内容は、あくまで予想であり、事実と異なる可能性

20XX

宇宙船から車まで!?すべて植物から出来ている! 水と二酸化炭素、太陽の光があれば生成される植物由来の「セルロースナノファイバー」のおかげで人類は鉄やプラスチックの代わりになる”無限 の資源”を手に入れた!この植物資源を使った万能材料は、地球上のあらゆる建材、製品に限らず、宇宙ステーションなど宇宙空間でも活用が進んだ。このため、森林資源の豊富な日本は、資源輸入国から一転して再生可能な資源大国に。さらにこの資源は樹木という形態で貯蓄しておけるため、世界各地で植林が盛んに行われ、地球は緑溢れる惑星の姿を取り戻した!

植物でできた車が走る!
2030

「セルロースナノファイバー」で広がる未来 石油などの化石資源を一方的に利用するのではなく、植物などの生物が長い進化の過程で作り出した機能に人間の知恵を加えてさらに優れた材料を作る「バイオフュージョン」(生物融合)の時代が幕を開けた。まさに人類史上、エネルギー産業・材料技術の大変革が始まろうとしていた!いまや車のボディから家電製品まで、世の中のあらゆる材料に、「セルロースナノファイバー」が補強繊維として使われ、その結果、製品の強度が飛躍的に上がっていた。また、軽くて熱への変化も小さいことから、建設中の「宇宙太陽光発電装置」の材料にも使われ始めている。

宇宙計画の鍵を握る!? 垂れ落ちないソフトクリーム?
2015

自動車部品をつくる準備が、ようやく整った! プラスチックに「セルロースナノファイバー」を均一に低コストで混ぜることに成功。その強度は普通のプラスチックの4倍以上にまで高まった。これを、自動車部品に使えば、車体が軽くなるので、燃費が上がる。また、使われるプラスチックの量も減る。日本のプラスチック原料の5%が「セルロースナノファイバー」に置き換われば、年間50万トン近いプラスチックが使われなくて済む。つまり、それだけ石油の使用を減らせるということ。地球環境にもとても優しくなるのだ。

セルロースナノファイバーとは?
2011

「セルロースナノファイバー」とプラスチックが混ざった! 自動車部品に応用するには、プラスチックと均一に、しかも低コストで混ぜ合わせることが必要。しかし、そのための技術は、長い間見つかっていなかった…。だが、ふとしたきっかけで、その技術が見つかったのである。

成功の鍵は、発想の転換
2005

夢は「セルロースナノファイバー」で自動車を作る 鋼鉄並みに強い「セルロースナノファイバー」由来の素材を作ることに成功。夢はその素材で自動車を作ることだが、実用化はまだまだ先。まずは、自動車部品に多く使われるプラスチックに「セルロースナノファイバー」を混ぜ、より軽く、強く、加工しやすい素材を目指した。しかし、そう簡単にはいかなかった…。

水と油の関係
2001

木材の強度の素となる成分を取り出せばいい! 鋼鉄なみに強い、世界一の木材を作ることを目指し、研究を続けていたが、計算上の強度にどうしてもならない。想定の強度の半分くらいの力を加えると折れてしまうのだ。しかし、5年もの間、試行錯誤を続けた結果、とうとう解決の糸口を発見した!それはこういった発想から導きだした。“木の構造のままでは、鉄の強さを超えることができない。ならば、木から取り出した「セルロースナノファイバー」だけで、材料を作ってみてはどうか?“調べてみると、パルプをナノスケールまで解きほぐした素材がすでに存在した。その素材をシート化して乾燥させ、樹脂を染み込ませて重ね合わせ、熱を加えて圧縮したところ、鋼鉄並みの強度(400MPa)を超える材料を作ることができたのだ!

もっと木材は強くなるはず! 「セルロースナノファイバー」は小さすぎるため、1本あたりの強度を直接測ることはできないが、その集合体である「パルプ」の強度から推測したところ、強度は鉄の約8倍。熱にも非常に強いことがわかった。これに人間の知恵を加えれば、木材はもっと強くなる!鉄を超える強度の木材も作れるはず!しかし、そう甘くはなかった。木に樹脂を配合して、木材の強度を上げようとしたのだが、想定の半分くらいの強度を加えると、その木材は折れてしまった。

木から、「セルロースナノファイバー」になるまで 強度の妨げになっていたものとは? 発見のターニングポイント
1996

嵐の日に気付いた“木の強さ” ときには、家の屋根すら吹き飛ばす台風。その風にも多くの木は倒れない。その強さの秘密とは何なのか?1人の研究者の素朴な疑問から、世界を驚かせる研究がはじまった。

なぜ木は強いのか? 爪楊枝の中にも・・・

セルロースナノファイバーで注目の矢野浩之先生に聞く 矢野浩之(農学博士) 京都大学 生存圏研究所 生物機能材料分野 教授 プロフィール 1982年京都大学農学部林産工学科卒業。同大学院を卒業後、1986年より京都府立大学助手。1989年農学博士号取得。京都大学木質科学研究所助教授を経て、2004年より現職。趣味は「テニス」。

■研究の魅力とは? 「いま、世の中は持続可能な社会を目指しており、環境に優しい植物由来の材料に注目が集まっています。中でも特に期待されているのが、このセルロースナノファイバー。最新の素材である炭素繊維の“次の世代の素材”とも言われています。炭素繊維が石油を原料としているのに対し、セルロースナノファイバーは植物から作られます。木だけでなく、草やミカンの皮だって材料になります。もしかしたら、裏山の木から自動車が作られる時代が来るかもしれません。地球に優しくて、鉄やプラスチックよりも優れている。まさに夢の素材で、これが世の中に広まったら…と考えると、ワクワクします」

■先生のようになるためには? 「常に“妄想”し続けることですね(笑)。私は“想像”と“創造”の間には“妄想”があると思っています。例えば好きなコができると、今ごろ何をやっているんだろう?とか、もしデートに行くならこんなところに行きたい!など、いろいろと妄想するでしょう?そういう時って、イマジネーションが豊かになっているんです。そういう感覚を常にキープしておけば、何か現象が起こった時に、ビビッと察知することができる。もちろん、そうしたヒラメキを形にするための能力を養うことも必要。妄想と勉強。この両立が大事です」

■発明のために一番大事なことは? 「20世紀は科学が万能だと信じられていた時代。しかし、人間の知恵だけでは、様々な出来事に対処できなくなってきました。20世紀型の科学の限界です。これからは、自然の恵みをいかに取り込んでいくかという発想の科学が主流になるでしょう。セルロースナノファイバーが良い例です。これは私が発明したのではなく、すでに植物が何億年もかけて作り上げたものを、利用させてもらっているだけ。その使い方を考えるのが重要になってきます。必要となるのは“感性”だと思います。自然の声に耳を傾けるというか、音楽を奏でるような、文学を紡ぎだすような、絵を描き出すような、そうしたアプローチがこれからは求められるはず。だから、科学だけでなく、様々な分野に興味を持ち、感性を磨いていって欲しいですね」

■京都大学で研究する魅力 「感性を磨く場としてはいい大学でしょうね。とても雰囲気が自由。私のような変なことを考える人間も、快く受け入れてくれるのですから(笑)。生存圏研究所の存在も京大らしいですよね。森から宇宙空間まで、人間が活動しえるすべての範囲をひとまとめに考えて研究しようなんて発想、他の大学にはなかなかできないと思いますよ」

■これからチャレンジしたい研究 「車や携帯電話のすべてを植物由来の材料で作ることですね。まだだいぶ先の話でしょうが、部品の一部としてなら、ここ4〜5年で世の中に出てくると思いますよ」