林業女子会@高知を発足
人と森をつなげる新たな活動へ
2021.12.23 THU
京都大学在学時代に、女性目線で林業の面白さを発信する「林業女子会」を立ち上げた井上さん。林業界の課題に対して真摯に、それでいて「面白いことをする」という姿勢で取り組む彼女の原点はどこにあるのか。京都時代のエピソードから高知に移住してからの活躍まで、余さず語っていただきました。
1987年生まれ。滋賀県出身。京都大学農学部、同大学院農学研究科で森林科学を専攻。在学中の2010年に立ち上げた「林業女子会」が、国内外に広まるムーブメントとなる。大学院修了後は林業・木材産業専門のコンサルティング会社に勤務。民間企業や自治体のブランディング支援に携わったのち、2018年に高知県安芸市に移住。嫁ぎ先の工務店を夫とともに経営しながら、森林を活用した民間からの地域活性に貢献。「林業女子会@高知」の代表も務める。
民間の力で森林を活性化
させる方法を考える
大学院修了後はコンサルティング会社に就職。林業女子会の活動を通じて知り合った森林再生コンサルタントさんが起業した会社で、林業・製材・木材流通・工務店など、木に関連する事業を行う中小企業の支援を専門とするという方針に魅力を感じました。社員は社長と私の2名だけというところからのスタートでしたが、私は林業女子会での経験を活かし、中小企業さんのブランディング、広報、マーケティングなどを主に担当。計画して提案したら終わりではなく、定着するまで伴走するという姿勢を大切に活動していました。長くつき合っていくことで、取引先の新規開拓に乗り出す、女性を雇用する機運が生まれるといった企業の変化を間近に見ることができました。大学で学んでいると、林業は斜陽産業なのではとネガティブ思考に陥りがちですが、実際の企業は「林業を元気にしよう」と前向きだったことも印象的でしたね。また材木店の敷地内でマルシェを開くなど、イベントの企画・運営も手掛けました。このイベントは今も続く地域の人気イベントとなっていて、まちづくりにつながる良い経験になったなと感じています。
コンサルティング会社で5年ほど経験を積んだのち、30歳を機に高知県安芸市に移住しました。夫の実家の生業である工務店を継ぐことにしたのです。高知は移住者にやさしく、自然豊かで食べ物も美味しい土地です。ここで木材や林業に関わる民間企業を元気にして、町や地域の活性化につなげたいという、二人の夢を実現するための新たな一歩を踏み出しました。
高知でも林業女子会を結成
林業界への提言を考える
現在は夫と共に家業である(株)井上建築を経営。「木のこころを、人のくらしに。」をコンセプトに、主に高知県の木や国産材を使った家づくりを手がけています。私は広報・マーケティングを中心に、女性目線・主婦目線での間取りプランニングやインテリアデザインも担当。施主さんと共に、建築に使用する木の産地である山や、木を加工する製材所を訪ねるツアーなども企画しています。また、高知には山を所有、相続する人も多いため、家づくりをきっかけにその山を実際に訪れ、伐採を体験いただいたり、伐った木を飾り棚などにして建築中の家に取り入れるなどの提案をしています。家業を通じて、過疎化が進む安芸地域に若い人が住み続ける環境づくりに貢献できていること。また山とのつながりを感じ、森林に関心を持ってもらう活動ができていることに、やりがいを感じています。
(株)井上建築の社屋外観。
一方で2018年に立ち上げたのが「林業女子会@高知」です。以前から「森林率日本一84%の高知にも林業女子会をつくりたい」という声をいただいており、移住を機に「つくりましょう!」と立ち上がりました。
高知の林業女子会の特徴としては、従来の柱であった《発信》と《横のつながりづくり》に加え、《林業界への提言》というのが活動方針に加わったことです。というのも、高知の林業女子会のメンバーには、公務員や団体職員も含めて林業の現場で働いている人が多く「林業界では女性の産休・育休が取りにくい」「道具が重くて労働負荷が高い」などの課題を普段から共有していたからです。そこで発足させたのが、林業の労働環境や雇用環境について考える「現場部」です。現在は、林業で使う資材や機械のメーカー担当者との意見交換会など、勉強会や座談会を重ねているところ。「女性が働きやすい林業は男性も働きやすいはずだ」というコンセプトで、いずれは林業界に具体的な提言を行っていきたいと考えています。
学生にお膳立てしないのが
京都大学のいいところ
高知での林業女子会のように、林業女子会の活動内容や役割も少しずつ変化しています。林業界への就職を希望する、女子のキャリア相談に応じることもありますし、私を含め初期の立ち上げメンバーたちが子育て世代になったことから、「森のようちえん」「木育(もくいく)」といった教育関係の取り組みも増えてきました。女性のライフステージに合わせて、林業女子会の活動の内容や役割はどんどん変わっていくのだなと実感しています。またそうやって、ゆるく、コツコツとやっていくことが、林業女子会を長続きさせる秘訣かもしれないとも思っています。
林業女子会@高知で開催した、植林体験の様子。
活動のあり方こそ少しずつ変化してきましたが、今の私につながる原体験は、やはり京大時代の山仕事サークルだと考えています。知らなかった世界の方々との出会いで新しい価値観を得たり、死ぬまで忘れないような感動に出会えたりしたことが、今の私を形づくっています。
また、ゆるく自由で、自分の好きなことにコツコツとマイペースに取り組むことができた、京都大学の環境の影響も大きかったと思います。近年では行政主導の地域活性化の取り組みのほか、学問として地域活性化に取り組むような動きも出ています。しかし一方で、あまりお膳立てしすぎると人は育たない、という声も聞こえてきています。私は京大時代に、山仕事サークルや林業女子会を通じ、自分で考え行動して小さくてもゼロから何かをつくり上げたことをきっかけに、さまざまな出会いや縁に導かれてきました。それはとても貴重な体験で、お膳立てをしすぎない、京都大学の姿勢があったからこそできたこと。京都大学にはこれからも、そのままの自由の学風であり続けてほしいと期待しています。
井上 有加さんが学んだ京都大学では、創立125周年を機に国際競争力強化、研究力強化、社会連携推進の3事業を展開するための寄付を募っています。ぜひともご支援を賜りますようお願い申し上げます。