京都大学の新輝点

井上 有加

09 ゆるく、面白く、コツコツと林業の未来を女性目線で変えていく(株式会社井上建築 取締役/林業女子会 発起人 井上 有加)09 ゆるく、面白く、コツコツと林業の未来を女性目線で変えていく(株式会社井上建築 取締役/林業女子会 発起人 井上 有加)

 京都大学在学時代に、女性目線で林業の面白さを発信する「林業女子会」を立ち上げた井上さん。林業界の課題に対して真摯に、それでいて「面白いことをする」という姿勢で取り組む彼女の原点はどこにあるのか。京都時代のエピソードから高知に移住してからの活躍まで、余さず語っていただきました。

井上 有加 Yuka Inoue

1987年生まれ。滋賀県出身。京都大学農学部、同大学院農学研究科で森林科学を専攻。在学中の2010年に立ち上げた「林業女子会」が、国内外に広まるムーブメントとなる。大学院修了後は林業・木材産業専門のコンサルティング会社に勤務。民間企業や自治体のブランディング支援に携わったのち、2018年に高知県安芸市に移住。嫁ぎ先の工務店を夫とともに経営しながら、森林を活用した民間からの地域活性に貢献。「林業女子会@高知」の代表も務める。

面白い人や体験との
出会いを求めて京大へ

 生まれは京都ですが、父親がサラリーマンの転勤族で、自然豊かな地域を転々とする幼少期を過ごしたのち滋賀に落ち着きました。森林に興味を持つようになったのは、小学校での環境教育がきっかけです。担任の先生が環境問題に熱心で、みんなでゴミ拾いをしたり、地球温暖化や熱帯林破壊や砂漠化などの記事を読んで話し合う機会を与えてくれたんです。そこから森林が環境問題に大きな影響を与えているのではと考えるようになり、森林について学ぶため京都大学に入学しました。

 京都大学を選んだ理由は、森林に関する幅広い学びがあったこと。もう一つは、面白い人たちに出会えるのではないかという期待があったからです。実際、私が在籍していた農学部には、菌類や昆虫、爬虫類など好きなものに熱中する人が多く、面白い活動をするサークルがたくさんありました。私が活動していた山仕事サークルもそのひとつです。山仕事サークルでは、活動拠点である京都北部の雲ケ畑という地域まで自転車で1時間かけて通うのですが、それも京大らしいですよね。私は「チャリで行くんや~!」と面白がり、雲ケ畑までの道筋を楽しみながら走っていました。ちなみに、きのこサークルも掛け持ちしていて、宝ヶ池や滋賀の田上山など先輩から代々受け継いできたきのこ狩りスポットを季節ごとに巡っていました。

現代社会と真逆の価値観に感動し
林業に関わり続けることを決意

 雲ケ畑では地元の山林所有者の指導を受けながら、植林・下刈り・枝打ち・間伐・炭焼きなどの山仕事の手伝いを行っていました。地下足袋を履いて山を登るのも初めてでしたし、木を伐るのも初めて。伐採した木が倒れた時の地響きを、五感で受け止めたときには心が震えました。

 また山林所有者のおじいちゃん、おばあちゃんたちから聞く、山の歴史や暮らしの話も魅力的でした。なかでも私が一番感動したのが、「伐り番」と「守り番」の話です。山林所有者の方々は、木を伐って財を蓄える「伐り番」と、木を植えて育てる「守り番」を世代ごとに交互に担当し、何世代もの長いスパンで森林を循環させ、先祖代々の山を引き継いでいるというのです。「ワシらの代は守り番で、子や孫が伐り番なんや」と語る山林所有者を前に、「一分一秒を争うスピード社会の中で、自分の生まれる前と死んだ後を考えながら生きている人がここにいる」と、強く感動したのを覚えています。こうした雲ケ畑での体験は、現在の私につながる原体験となりました。

井上 有加

山仕事サークルでの体験は、その後の人生に大きな影響を与えた。

河原町のカフェで
林業女子会を結成

 山仕事サークルでの体験を踏まえ、大学や院では植樹の作業効率を上げる方法や野生動物による食害問題について研究。その一方で、SNSで「林業女子」という言葉を使い始めたのもこの頃です。当時は巷で山ガールが流行しており、ファッションを入り口に登山やハイキングを楽しむなど、アウトドアをライフスタイルに取り入れる流れが生まれていました。ですが、人の“生業”に近い山や森との関わり方ができるのが「林業」の魅力。この魅力を押し出したいという想いから、「私たちは林業女子!」なんてつぶやいているうちに、林業について女性目線で発信すれば、認知が広がるのではないかとも考えるように。サークルや大学で活動するなかで、林業を体験したことがある人や、林業の課題や可能性を知る人が少ないというのをとても感じていたので、「あえて女性の目線から林業について発信することができたら面白いのでは」と考えたのです。

 とはいえ一人では何もできません。そこで「みんなで何かしませんか?」とSNSなどで声をかけたところ、京大や他大学の山仕事サークルのメンバー、森林組合や木造建築に関わる方など10人ほどの女子が河原町のカフェに集まってくれました。それが林業女子会の始まりです。

 林業女子会では、林業の魅力発信や林業女子たちのつながりづくりを目的に活動。発信面では、フリーペーパーの発行や、町家で女子限定の木工体験などのイベントを開催していたのですが、自然や木工に興味がある女子たちが「なんだか楽しそう」と集まり、そのまま林業女子会に入る方も出てくるようになりました。つながりづくりの面では、林業はやはり男性社会なので、少数派の女子たちの貴重な交流の場ともなりました。またメンバーには森林組合職員から、バイオマスエネルギーの普及に取り組む経営者など、幅広い業種の方がいたことで、互いの視野を広げる効果もあったと思います。

 最終的には京都だけで30名ほどのメンバー数に増え、他県でも林業女子会をやりたいという声をいただくようになり、徐々に団体数が増えていきました。2021年新たに@愛媛が設立し、結成から11年になる現在では国内海外26の林業女子会が活動中です。また今も他県から設立相談を受けています。

井上 有加

林業女子会@京都のメンバーでフリーペーパー「fg」を発行。

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