わたしの京大力

No.005
木谷 百花

医療で世界を変えるには?
フィールドワークで開花した、
無限に広がる好奇心。

医学部 4年生 木谷 百花

Profile

富山県出身。医学部医学科に在籍しながら世界各地へとフィールドワークに赴き、社会と関わりながら公衆衛生分野の調査などを行う。タイの薬剤耐性菌についての調査で第3回京都大学久能賞を受賞。

世界を変えるのは現場の医療か、マクロな施策か?

 世界中の人々の生活の向上に貢献できるような大きな仕事に憧れて、中学・高校の頃には国連などの国際機関で働きたいという夢を持っていました。「これからの社会を変えるのは教育と医療分野だ」と考えて各大学のオープンキャンパスを巡っていた時に、偶然目に留まったのが京都大学の医学部。ブースにいらっしゃった先輩の「社会に貢献できるよ」という言葉に惹かれ、自由でおおらかな雰囲気の京都大学で学びたいと思い入学を決意しました。

 入学してみると、想像よりもずっとアクティブな環境があって驚かされました。国内外を問わずいろいろな場所を動き回る先輩方を見て、世界が一気に広がったように感じました。そんな中でWHOや厚労省のインターンに参加された先輩から公衆衛生のお話を聞く機会があり、自分も国際的な医療制度などの視点から世界に貢献したいと考えるようになったんです。

 公衆衛生に課題がある途上国の現状を知るために、1年生の時にまず参加したのがベトナムの医療支援をしている団体の活動でした。その団体ではホーチミンから車で3時間の無医村に年に1回訪れ、患者さんと一対一でリハビリ支援や診察を行います。わたしはカルテの記入などをお手伝いしました。とても貴重な経験でしたが、途方もなく地道な活動で、自分のやりたいこととは少し違うようにも感じました。そこで次に参加したのはユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の国際会議です。各国の首脳や大臣が一堂に会する場で学生有志としてスピーチもしましたが、今度は逆に規模が大きすぎて、地に足がついていないように思えたのです。

タイの調査で掴んだ手応え。挑戦のフィールドは無限大。

 現場主義のミクロな視点と疫学や統計に基づいたマクロな視点の間で軸足が定まらないまま、2年生になって出会ったのがタイの医療でした。

 きっかけは、先輩からタイでの調査活動に誘っていただいたことでした。タイでは抗菌剤が広く使われている影響で、薬剤耐性菌の蔓延が問題になっています。実態調査のために2度にわたってタイに渡航し、現地の薬局の方や一般市民へのインタビュー、さらには大学の先生やタイの保健省の方とのディスカッションを行いました。フィールドワークに基づいてマクロな施策に関する議論も行えたことで、私の悩みだったミクロとマクロの視点の振れ幅が収まってきたんです。

 この調査結果を学会発表に向けてまとめていた時期に、第3回京都大学久能賞募集のPOPを大学の食堂で偶然目にして、締め切りギリギリで応募書類を提出しました。結果、ありがたいことに賞に選んでいただけたのですが、時間も手間もかけた研究だったのでとても嬉しく思っています。

 一方で、タイではすでに薬剤耐性菌の対策が進みつつあります。3年生の時もタイの保健省のラボに短期留学させていただきましたが、私が学生の立場でできることの限界も見えてきました。それならば学生のうちにしかできないことをやろうと考え方を変えて、今はなるべく多様な分野の学問に触れることにしています。文化人類学の先生のもとでフィールドワークをしたり、それと同時に、病院に勤務するさまざまな立場の臨床医の先生にインタビューをして将来の道を考えてみたり……。一度は収まりかけていた軸はまた揺らぎはじめており、やってみたいことは次から次へと湧いてきますが、京都大学はそんな私の好奇心を受け止め、挑戦を後押ししてくれる環境です。一見遠回りに見えることでも巡り巡って人の役に立つと信じて、興味の赴くままに飛び込んでいきたいですね。

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タイで取り組んだ薬剤耐性菌の実態調査。ミクロ、マクロ、両方の視点でのアプローチができ、有意義な体験となった。

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第3回京都大学久能賞授賞式でのスピーチ。京都大学久能賞は、久能悠子氏からの寄附により、独創的な夢を持つ意欲のある女子学生を支援するために設立された。

わたしの京大力MY KYODAI-RYOKU

新しい何かを求めて、興味のままにフィールドに繰り出すフットワークの軽さ

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