創立125周年に寄せて

永田 和宏

短歌、恋人との出会い、
落ちこぼれの経験が
人生に計り知れない
可能性を与えてくれた。

JT生命誌研究館館長/細胞生物学者
京都大学名誉教授/京都産業大学名誉教授
歌人(朝日歌壇選者、宮中歌会始詠進歌選者)

永田 和宏

京都大学理学部物理学科 1971年卒業

 高校時代、物理が好きで、物理をやるのなら湯川秀樹先生のおられる京大しかないだろうと、勇躍京大の物理に入った。しかしあっけなく落ちこぼれるのに時間はかからなかった。私が三重苦と呼んでいる三つの理由がある。一つは70年大学紛争で全学ロックアウトされ、講義がほぼゼロだったこと。しかしこれはみんなに共通することで私の落ちこぼれの理由とはならない。二つ目は短歌に出会ってのめり込んだこと。第三に恋人に出会い、間の悪いことに恋人と短歌がリンクしていたこと。それがのちに妻となり、十年ほど前に亡くなってしまった河野裕子であった。河野との出会いは、私の人生のすべてであったかも知れないと思っている。これを語り出すととてもスペースが足りないが、もうすぐ一冊の本になる予定。
 ともあれ、とことん落ちこぼれて、都落ちの気分で企業の研究所へ就職。そこでサイエンスのおもしろさを知り、一歳と三歳の子持ちの身でありながら、無給になって京大に舞い戻って来た。なんとも無茶な選択であったが、京大での落ちこぼれの経験は、私の人生に計り知れない恩恵と自在さと可能性を与えてくれたことは確かである。

2021.05.20 THU

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