京大惑星の地下には、発明者たちの夢見る未来世界が秘密裏に存在します。
さぁ、タイムマシーンに乗って、発明品の時空を探検しよう。
※本コンテンツは取材当時の情報に基づいた内容となっております。
また未来に関する内容は、あくまで予想であり、事実と異なる可能性
錬金術でクリーンな世界に! ほんのわずかしか地球上に存在しなかったレアメタルを、人工的にしかも天然より高性能な“金属”として生み出すことが当たり前となった未来。世の中では大気汚染がなくなり、資源の取り合いによる戦争もない社会が実現!
排ガス0の世界が実現『人工ロジウム』で広がる未来 さまざまな有害物質を分解して、最終的には空気と水に分解してくれるレアメタルの一種「ロジウム」。このロジウムが人工的に、しかも安く、たくさん作られるようになったことで、私たちは快適な環境の中で暮らせることに!
人工ロジウムで地球温暖化が解消“スーパー合金”『人工ロジウム』がついに完成! 元素周期表で天然ロジウムに隣り合う「ルテニウム」と「パラジウム」を原子混合すれば安くできる!…試行錯誤の末、2年がかりで、天然ロジウムと同等もしくはそれを上回る性能の『人工ロジウム』の合成に成功。
ロジウムとは? 成功の鍵は霧吹き!?ロジウムを人工的に作り出すぞ! ロジウムと銀から『人工パラジウム』を合成することには成功したが、一つ問題が・・それは、材料となるロジウムがパラジウムより高いこと。これでは実用化は困難…。そこで、今度はロジウム自体を安く作り出す研究が開始された!
たった100gで高級車1台分(2007年)!??レアメタル初の人工合成で「パラジウム」が誕生! “ロジウムと銀を混ぜてパラジウムを作る”研究の開始から3年。ついに、燃料電池の性能向上に欠かせない水素を吸着、貯蔵、反応させる能力を持った「パラジウム」と同じ金属の合成に成功。
発見のターニングポイント混ざらないはずの金属同士が偶然混ざった!? 金属学の教科書では、“パラジウムと白金は混ざらない”というのが定説。しかし、水素をたくさん吸着することで知られる「パラジウム」と「白金」の2つの金属を「ナノ粒子」にし、さらに「コアシェル構造」という状態にして、どれくらい水素を吸うかの実験をしていた最中、たまたま混ざってしまったのだ。
金属なんて混ざるの?人工ロジウムの生みの親 北川宏先生に聞く 北川宏(理学博士) 京都大学 理学研究科 化学専攻 教授 プロフィール 1986年京都大学理学部卒業。1992年に博士号取得。分子科学研究所助手、北陸先端科学技術大学院大学助手、筑波大学助教授、九州大学教授を経て2009年より現職。趣味は「飲み歩き」。
■研究の魅力とは? 「二つのビーカーの中に入っている別の金属の溶液を混ぜると、全く違う金属ができる。これが面白いですね。料理と同じ。このスパイスを加えたらどんな味になるのかというワクワク感に近いものがあります。化学は宝くじと一緒。つまり、偶然による一発逆転がある。誰にでも平等にチャンスがあるんです」
■先生のようになるためには? 「実は私、高校時代の化学の偏差値は35だったんです。“モル”が全く理解できなくて。先生に“1モルはなぜ22.4リッターなんですか?”と聞いても“暗記しなさい”の一点張り。それが嫌で、落ちこぼれてしまいました。ところが予備校の先生が京大助手だった博士で、そうした疑問にズバリ答えてくれたんです。おかげで、化学は暗記じゃないんだって気づいた。それで化学に目覚めて、今は大学で化学を教えています。つまり何を言いたいかというと、誰でも私のように化けることができるということ。好きなことを真剣にやり続ければ必ず道は開けるということです」
■発明のために一番大事なことは? 「アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブスは生前“ステイ・フーリッシュ”、アホであり続けろと言っていました。まさにその通りで、他人から違うと言われても、自分を信じてやることです。そのためには、教科書や常識にとらわれすぎないこと。そして、忍耐です。ユニークな発想も、結果が出るまでには時間がかかります。私たちの研究も、最初は3年近くかかりました。3ヶ月で諦めるのではなく、“結果が出るまでやめない”くらいの気持ちでやり続けることが肝心ですね」
■京都大学で研究する魅力 「まず研究設備が充実していること。日本にあるほかの大学に比べて、研究するための装置や道具、環境などがとても恵まれていると思います。それらのもとは税金。学生たちにはいつも“自分の研究がどれだけ社会の役に立つか考えなさい”と言っています。あと、アカデミックな雰囲気が溢れていることですね。“研究がイチバン!”という空気が、キャンパスのどこにいても感じられます。これは、ずっと昔から、先生方や学生達が培ってきたもの、学問の自由が京大にはあります。こうした雰囲気が、人を育てるのだと思います」
■これからチャレンジしたい研究 「「テクネチウム」という金属を合成してみたいですね。これは、自然界に存在しないんですが、元素周期表の両隣に位置するルテニウムとモリブデンは自然界で手に入ります。つまり、この二つを混ぜることができれば、テクネチウムができるのではないか?すでに取り組んでいますが、3年かかってもまだ成功していません。でもこれが出来たらインパクトは大きいですよね。なにしろ、自然界に存在しないんですから!」
原子は「イオン」という+(プラス)か−(マイナス)の電気を帯びた状態になると、水に溶けて混ざりやすくなる。そこで、ロジウムと銀をそれぞれイオンの状態にして、水の中で均一に混ぜ合わせた。後はこの状態のまま金属に戻せばいいのだが、それが非常に難しい。なぜかというと、ロジウムと銀は金属に戻る時間=還元スピードが違うのだ。そのタイミングを合わせるために、考えられるすべての方法をためした結果、ロジウムと銀が入った溶液を加熱して還元スピードの差を限りなく無くし、さらに霧吹きを使って溶液を還元剤(イオンを金属に戻す薬品)に“一気に”吹き付けてみた。するとロジウムと銀がきれいに混ざった状態で金属に!まさに気合の勝利!
常識的には“混ざらない”とされている金属同士でも、「ナノ粒子同士なら混ざるのでは?」と考えたことが、“レアメタルの人工合成”という偉業につながった。“どうせ”とか“やっても無駄”とか、最初から諦めないことが肝心!
教科書を読むことは大事。でも、教科書に書かれていることは、何十年もたって科学技術が進歩したら、正しくなくなっているかもしれない。だから、教科書に書いてあることだけを信じないで、“書いていない答え”を見つけることも大事である。
以前にも“金属をすごく小さくすれば混ざるかも”と思った人はいるだろう。でも、そう簡単にはできない。人工ロジウムのもととなった人工パラジウムの合成にも、3年近くかかっている。混ざるまで諦めなかった粘りが、成功の鍵だったといえる。