アステラス製薬株式会社の竹中登一共同会長 挨拶
アステラス製薬の竹中でございます。
本日、京大とアステラスの連携による「わが国初の長期大型創薬医学融合拠点」での共同研究が本格的にスタートしたこと、まことに悦ばしく存じます。
2005年の暮れに、成宮先生、中尾先生と本プロジェクトの検討を開始してから、京大・アステラスチームは、文部科学省に本プロジェクトの重要性を理解いただけるよう努力し、かつ早期に研究がスタートできるように、拠点の運営方針、ラボ改修など、大変スピード感ある活動を進めることで、今日を迎えることができました。改めて、京大、アステラスの本プロジェクト立上げに参画された皆様に、厚く御礼申し上げます。
さて、私が研究者であった1970年〜1990年台を振り返ってみますと、この時代は大学を中心に薬理学、生化学による受容体イオンチャネル、酵素の研究が進展し、その機能や病気との関係が明らかにされた時期でした。しかし、当時、大学人はこれらの知見を創薬に応用することにあまり興味はないようでした。一方、企業は大学で発見され、かつ公表された知見に基づき、自社内で創薬を行い、H2拮抗剤、Ca拮抗剤、HMG・CoA還元酵素阻害剤など発明することで、胃潰瘍、高血圧、高脂血症の治療に貢献してきました。さらに、これらの医薬品を研究・開発を経て、日本の企業は自社内に新薬をグローバルに研究開発できるインフラとシステムを構築しました。さらには多額の研究開発投資ができるグローバル企業へと成長してきました。1964年、東京オリンピックの年に、私は山之内製薬に入社しました。そのときの研究開発費は年間3億円、研究者は100人でしたが、今、アステラス製薬の研究開発費は年間約1,500億円、研究者数は1,000人を超えるようになりました。このように、現在では私達が創薬を行う環境は整備されました。
創薬は日進月歩で進歩していますが、未だ治療法・治療薬のない疾患も多くあります。例えば、アレルギーや免疫難病などで、私達はこれらをアンメットメディカルニーズと呼んでいます。21世紀に入り、企業においてもゲノムや分子生物学による病気の原因となる分子の研究、いわゆる基礎研究に力を入れてきました。しかし、企業単独の基礎研究には限界・弱点があります。それは、病気、あるいは患者さんとの連携が薄いということです。一方、京大のような大学では、日常臨床の中で、患者さんの真のニーズを把握し、これを基礎研究にトランスレーションし、病気の原因分子解明の研究を、医学・医療の観点から進めています。こうした背景から、私は医療現場で基礎研究を行う大学と、創薬のプロセスをすでに確立した企業が連携することにより、真の患者さんのための医薬品、アンメットニーズを充足できる医薬品を創製できると考えました。そして、企業から大学に押しかけ、お互いの研究資産を活用することを考えました。
本プロジェクトに参画される京大関係の中核研究者、公募による創薬若手研究グループ、創薬基盤プロジェクトグループ、アステラスからの派遣研究者の皆さん、本プロジェクトは治療薬がなく満足した医療を受けられない患者さんに、新薬をお届けするという大役と同時に、日本のライフサイエンス研究に大学と企業が大型かつ長期的視野で連携し、イノベーションを起こすフロンティアとしても重要なプロジェクトです。
さあ、今日から種をまき、発芽させ、育てて、立派な成果、果実を収穫しましょう。皆さんのご活躍と成功を祈念しています。
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